泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第34回 『TNI第4期卒業生の日系企業就職』
タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は、昨年卒業したTNI第4期(2013教育年度修了)卒業生の日系企業就職などについて、タイ一般大学生との違う点に焦点を当ててご紹介します。
TNI第4期 (2014年) 卒業生の声
まず3人の卒業生の声を紹介します。カイゼン、グループ活動、TPS、日本語…など、卒業生は日本企業に特有な良い特徴を習得したことがわかります。
ウィチュナン君Mr. Wichunun Chelermmuang (情報技術学部ビジネス情報技術学=BI専攻)
2013.10月3.5年で卒業。RIS会社勤務。職務はシステム開発のデータベース管理。TNIで学んだことをすべて仕事に生かしています。TNIは授業以外でも色々な活動に参加の機会があり、特にグループ活動は仕事に役立ちました。皆が親切で、教員の的確な指導にも感謝しています。カイゼンなどの日本的経営方法は学生の自己開発に役立ち、TNIで得た知識・経験が将来の達成の鍵になっています。
ジラパンさんMs. Jirapun Pimpa (経営学部工業経営学=IM専攻)
2014年3月卒業。日系金型メーカーにエンジニアとして勤務。入学前から、工場に関心があったので、IMの勉強ができるTNIに入りました。TNIではTPSなど実際の現場のやり方を学びました。TPSはトヨタの工場管理のやり方というもので、生産現場で有用なやり方です。今は営業部で製品や作業方法など顧客に製品と品質を信頼してもらう上で重要な部門にいます。IM課程で必要な専門内容をすべて習い、また日本語を学べたので、今の就職に繋がっています。
キティコーン君 Mr. Kittikorn Khajorn (工学部生産工学=PE専攻)
2014年3月卒業。ホンダR&Dアジア太平洋社勤務。仕事は、金型生産に関連した自動車部品の設計業務です。仕事は大学で学んだことと共通し、大学の経験が自信になっています。日本語力も有利な点で、会社の日本人上司とのコミュニケーションに役立っています。TNIの授業も良かったのですが、日本での交換留学やインターンシップも良い経験です。何人かの同僚は、大学の授業と会社での仕事は違い、会社で1から出直さないといけないと言っていましたが、私にとってはこの逆で、TNIでの勉強は仕事に役立つ基礎というもので、これが基になって技術・経験を磨くことができます。実際の現場で生き抜く力を与えてくれた教員の方に感謝しています。
第4期卒業生の日系企業等への就職状況
前号でご紹介したように、第4期卒業生とは2013教育年度(2013.6‐2014.5)の単位取得完了者で、主として2014年4月から就職して、2014年11月のTNI卒業式に出席し、学位授与を得ています(日本学生の卒業時期と多少のずれがあります)。なお第4期卒業生573人は、前年の第3期卒業生655人に比べ82人少なくなっています。タイの一般大学で入学しても卒業できない学生が多いと言われますが、TNIでも登録数と違う実際の入学者、(授業料を払えないなどの理由による)途中退学者、落第、提携校が急激に増えて中短期の日本留学増による卒業単位未取得者の増加が原因と思われます。図を簡単に説明します。
- 日系企業就職は、前年の50%から38%へ、日系取引企業就職は13%から20%になりました。この変動は、次項が主な理由と考えられます。
- 工学部卒業生163(前年)⇒135人(本年)、情報技術(IT)学部132⇒131人(MT=マルチメディア技術学とBI=ビジネス情報技術学が新たに加わり、他の学部より人数減は少ない)、経営学部266⇒170人の減少が影響しています。つまりIT学部卒業生が相対的に増え、(タイで少ない)日系企業に(就職したくても)就職できない卒業生が増えたことが理由と考えられます。
- ちなみに一般のタイ大学生の日系企業人気度は、インフォ・ビズ誌「2015大学生が就職したい企業トップ100」によると、100社中、日系企業は17社で、外資(日本以外)14社、タイ企業等69社ですので、それに比べると、TNI生の日系企業への関心は高く、日系企業就職が難しい情報技術学部卒業生を除くと、日系企業就職率は高いと言えます。
- 同調査は2009年以来7年連続実施しており(2012年17社をピークに、日系企業就職希望は2014年8社まで落ちていましたが)、2015年は一転増加しています。今回目についたのは、教師、教授・研究者、政府関係機関、法律・会計事務所、自営業など希望の学生の増加で、また商業・サービス、金融・保険、食品、ICTなどの業種が伸びています。
- なお、工学部卒業生の日系企業就職は69人(12%)、取引企業25人(18.52%)で、比率では前年とほぼ変わりません。経営学部は79人(46.47%)、取引企業56人(20.59%)で、日系企業就職が減り、日系取引企業の比率が増えています。
- 情報技術学部卒業生は、日系企業に強い関心を持っても、残念ながらタイの日系企業が少なく、就職が限られるのが現状です。
筆者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)
泰日工業大学(TNI) 学長顧問