タイ版 会計・税務・法務

【第116回】 土地家屋税改正

Q:タイにおける土地家屋税(House & Land Tax)の改正が行われると聞いたのですが、どのようなものでしょうか?

 

A:総選挙が行われることが予定されていることもあって、2014年から始まった軍政下における税制の改正も大詰めを迎えてきています。その流れの中から、2016年以来実施の目処が立っていなかった、土地家屋税の改正についても、ようやく実施される見込みとなったようです。以下では、現行制度との比較も盛り込みながら、概略を説明させていただきます。

まず、現在の土地家屋税(House & Land Tax)は土地建物の所有者に対して課せられる税ですが、賃料の12.5%という比較的高額の税率がかかっています。これは、賃貸を行なっていればその賃料から、自己所有の場合(居住用を除く)は税務署の査定でこの金額が査定されます。ただし、実際には賃貸の場合、賃料を抑えるために別名目で賃料を徴収したり、自己所有の場合には低い査定が行われたりしたため、税率が高くとも実態としての支払額は比較的少なく抑えられてきた=税収がさほど多くなかったという経緯があります。

これに対して軍政下において、日本の固定資産税のように、透明性をもった固定資産評価額に対して一律に課税を行う新税制の導入が図られ、2016年にその内容が発表されていました。これは、相続税の導入(2016年)と並んで、タイの富裕層に対しても課税強化を行うことを通じ、あまりに金持ち天国と言われている税制を改正することにより、税負担における所得階層別の公平を図り、低所得者層の不満感をやわらげる効果をもたらすものかと思います。

最近、日本の税制は富裕層への課税が大きすぎるとして、評判があまりよくありませんが、戦後の高い相続税、高い累進税率の個人所得税、路線価をベースとした固定資産税によって、富裕層の固定化=階層社会化を税の面から防止してきた側面があることは否定できないと考えられます。

その意味で、貧富の差が激しく、またそれが政治的対立に結びつきやすいタイにおいて、透明性の高い固定資産税が導入されること自体は、効果については疑問があるものの、個人的には方向性としては正しいのではと考えます。

さて、この新しいタイの土地建物税(Land and Building Tax)ですが、基本的には現在の地方税である土地家屋税と、地方開発税の二つを代替して、統合するもので、課税については、以下のようになっています。

1)農業用;最高税率 0.15%、当初は最高税率0.1%までで4段階の税率の課税、個人所有について当初3年間は非課税、その後も5千万バーツ相当の資産は控除。

2)居住用 ; 最高税率は0.3%、当初は最高税率0.1%までで4段階の税率、個人所有については最初の家屋保有について、土地建物の場合5千万バーツ、建物の場合には1千万バーツまでの控除あり(従って、1千万バーツ以上の物件でないと最初の家屋保有では課税されないことになります)。

3)商業用;最高税率は1.2%、当初は最高税率0.7%で5段階の税率

4)未利用地(更地);当初は税高税率0.7%ですが、未利用が続くと3年ごとに0.3%ずつ上がることになります。

 

上記のように更地への課税が強化されていることもあり、上記の目的以外にも、土地開発を促進しようとしています。導入は2020年1月からの課税開始が予定されています。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk 

2019年1月号

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