タイ版 会計・税務・法務

【第117回】労働保護法改正

Q:昨年末に、労働者保護法の改正が発表されたと聞きましたが、どのようなものでしょうか?

A:何回か取り上げさせていただいている通り、労働者の保護および解釈・運用の明確化を図るべく、軍政下にあって労働者保護法について度々改正されてきており、昨年末にも改正が発表されました。以下では、今回の改正の概要と考えられる影響等について、述べさせていただきたいと思います。  「法定最低解雇金(Severance Pay)の最長期間区分が20年の就労期間分が追加されます」:これまで、解雇金の区分は「最長10年超の就労期間の場合300日分相当の解雇金支払い」がもっとも長い期間となっており、そのため解雇金(含む退職金)については300日分が最高額の目処(※会社で別途規定されている場合は除く)とされてきました。

今回の改正においては、もう一つ20年超という区分が付け加えられ、10年超~20年以下が300日、20年超が400日分相当と改訂されます。これは一つには、タイにおける就労期間、特に法人における就労期間が延びているといった社会的背景があるのではと推測されます。なお、会計上の退職給付引当の見積もりについては、300日分の給与を上限としていましたが、これからは400日分として見積もりを行う必要が生じると考えられます。

「雇用者の変更による雇用契約の移転について被雇用者の事前同意が必要となります」:労働者保護法において雇用者の変更(法人の場合は登記の変更、移譲、合併等)があった場合、雇用者が現契約を引継ぐ義務を規定していましたが、労働者の側でそうした変更に対して異議を唱える権利(つまり新しい会社で働くことを拒否する権利)について明確化されていませんでした。今回の改正によって移転をする際には労働者の明確な事前同意が必要となります。従って、雇用契約移転を伴う事業再編・合併を行う場合には、労働者の同意取得手続きが必要となりますので、注意が必要です。

「事業所移転の場合の手続きが明確化されています」:タイの労働者保護法においては事業所の移転の場合における労働者の権利保護が規定されていますが、今回の改正においては手続き面が明確化されています。まず、移転に関する30日前告知については「現在の事業場における適切な場所における掲示」が要求されるようになります。また、労働者の側からの移転についての不同意については「文書」で雇用者に対して表明することが必要です。また不同意の場合の解雇金支払いのための「解雇日」は、移転の日であることが明確化されました。従業員の生活に大きな影響を与えるような移転がある場合には、こうした法律の規定に沿った手続きを行うことが必要です。

「ビジネス休暇の法定化」:日本にない種類の休暇ですが、会社とは直接関係のない用事であるものの休暇を取得して行わなければならないようなこと(例:役所への手続き等)について、これまでは法律で規定されていませんでしたが、今回の改正において年間3日まで取得できることになりました。なお、どのような場合がこの「ビジネス休暇」に該当するかは別途通達が出される予定です。

その他、「産休の充実」「支払い遅延の場合の利率の改訂」等が盛り込まれています。軍政下における労働関連法規は今回のもので一段落かと思われますが、これを機会に社内規定の見直し等を行われるのも良いかもしれません。

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk 

2019年2月号

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