タイ版 会計・税務・法務

第118回 M&A法制-取引競争法

Q:タイでの企業買収を考えているのですが、外資規制や税務以外にどのような規制があるでしょうか?

A:タイにおいて企業買収(M&A)を行う場合、一般的な外資規制や会社法(民商法・公開会社法)、公開会社に関する証券取引法、また、個別業種における規制、従業員に関する労働法上の対応、税務等、多岐にわたる法制度の検討が必要になります。今回はその中で軍政下の2017年に改正され、法の整備が進んできている取引競争法について、概要と昨年末に発表された施行細則について、ご説明させていただきます。

まず、この「取引競争法」は、日本や諸外国における独占禁止法にあたるもので、主として①市場支配力濫用、②企業結合規制、③カルテル、④不公正取引があげられております。そもそも、タイでは1999年にこの取引競争法が施行されたのですが、この法律を実施する細則の制定が進まなかったことや、それに関連して法律の運用を行う部署(日本でいう公正取引員会)やその事務局が独立性を保った形で整備されていなかったため、改正前の取引競争法の利用(およびそれに基づく指摘等)は非常に低調なものであったとのことです。

個人的には、タイ国内経済も財閥等の跋扈を許容しているなかで、あまり「公正な市場の形成維持」という観点から監視を行うという考え方が根付いていなかったのかとも思います。

そうした中で2017年、これまでの旧取引競争法の欠点を補って充実した形で発布されたのが新取引競争法です。改正法では、取引競争委員会を独立した機関として設置し、また罰則の強化等も盛り込まれましたが、企業結合についての規制も事前の許可、事後の届出が必要とされており、まさにM&Aを行う際においてタイ市場に関連する企業結合の場合には、この取引競争法の事前許可・事後届出が必要となる場合があります。

まず、取引競争法第51条では、特定の市場で「重要な競争を減少させる可能性のある企業結合の際」には、結合の7日以内に事後届出が必要とされていますが、この判断基準としては、今回発表された細則では合併の前後10億バーツ以上の年商が特定の国内市場で発生している場合とされています。

また同条2項では、結合の結果、独占または支配的地位が発生する場合には、事前の認可が必要とされていますが、事後登録の要件である10億バーツ以外に、価格や供給に関する支配の度合い、および、市場占有度の判定(単独で50%、トップ3で75%等)があります。

この取引競争法においては、罰則の他に、損失を被ったものの損害賠償請求権を規定していますので、当該法律違反を同じ業界から指摘を受け取引競争委員会の査察の査察が行われる場合や・訴訟に発展する可能性が、より高くなってきていると思われます。

いずれにせよ、企業結合の場合における10億バーツという目処値は、日本円で40億円弱と必ずしも大きな金額ではありませんので、少し大きな買収を行う場合、特に今後はタイ国内市場関連をターゲットとした買収も増えてくると思いますので、この取引競争法への対応にも一層留意が必要と考えます。

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

 

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk 

2019年3月号

  • Facebook
  • twitter
  • line

関連記事