タイ版 会計・税務・法務
【第77回】 労働法に基づく従業員管理について
Q:弊社はようやく従業員を4名確保し、これから事業を開始する予定なのですが、就業規則の作成は必要でしょうか?
A:現時点では不要かと思われます。タイの法規上、就業規則の作成義務が発生するのは従業員が10人以上の雇用者とされているためです。なお、当該就業規則には会社独自の規定を織り込むことも可能である一方、タイ語での作成および下記の事項を最低限織り込むこととすべき旨も定められているため、作成時にはタイ語を解する専門家と協議の上作成されることをお勧めします(※1)。
① 労働日、通常労働時間及び休憩時間
② 休日及び休日の原則
③ 時間外労働及び休日労働の原則
④ 賃金、時間外労働手当、休日労働手当及び休日時間外労働手当の支給日及び支給場所
⑤ 休暇日及び休暇取得の原則
⑥ 規律及び懲戒処分
⑦ 苦情申立て
⑧ 解雇、補償金及び特別補償金
Q:『休暇日』についてですが、従業員はいつから有給休暇を取得することができることになっているのでしょうか?
A:タイの法規上は、勤続1年以上の従業員が6日以上の有給休暇を取得できると定められているため、法律上は1年働いてから、ということになります(※2)。一方、実務上は従業員への配慮から数カ月間の試用期間の終了後から取得することができると規定されている会社が多いように思われ、このような取扱いについては同法上も認められています(※3)。
Q:『従業員への配慮』とのことですが、従業員にとって有利な規定を自社の就業規定とすることは労働法務上は問題ないという理解で宜しいでしょうか?
A:原則その理解で良いかと思われます。例えば前述の有給休暇の決めについても、『勤続1年の従業員が取得できる有給休暇は年10日とする』という規定は、従業員にとり有利な規定であるため認められるかと思われます。
一方で、従業員にとって不利な規定(例:『勤続1年の従業員が取得できる有給休暇は年3日とする』)といった規定は、仮に雇用契約上で合意していたとしても、強行法規的に無効になると解されていますので、留意が必要です。
Q:有給休暇については、翌年度への繰越は認められるのでしょうか。
A:タイの労働法上、労使の事前合意により翌年度への繰越が可能(※4)とされており、実務上も一定の上限日数を設定した上で繰越を認めるという運用が良くみられます。
休暇日の設定方法のみならず、タイは失業率が0.84%(※5)と極めて低く、人材の流動性も非常に高いため、優秀な従業員確保のために従業員にとってさまざまな形でメリットのある就業形態を提示するというのが、人事施策上も重要になってくると思われます。
(※1)労働者保護法第108条
(※2)労働者保護法第30条第1項
(※3)労働者保護法第30条第4項
(※4)労働者保護法第30条第3項
(※5)2014年実績。IMF World Economic Outlook Database April 2015
今後取り上げてほしいというようなテーマがございましたら、参考にさせて頂きたく存じますので、下記のEmail宛にご連絡頂戴できますと幸いです。
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著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク ディレクター
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2015年10月