タイ版 会計・税務・法務

【第91回】 会計基準の変更について

Q:来年度から、タイの会計基準に少し変更があると聞きましたが、どのようなものでしょうか?

A:この変更については、すでに今年の6月に発表していましたが、徐々に骨格が固まりつつあります。以下では、実務的な観点より、この変更について述べさせていただきます。
まず、これまでタイの会計基準は、大きく分けて公開企業向けのタイ会計基準(TFRS for PAEs:国際会計基準-IFRSをもとにしたもの)と非公開企業向けのタイ会計基準(TFRS for NPAE)の二つがありました。このうち、非公開企業向けのタイ会計基準を、中小企業向け国際会計基準2015年版(2015 IFRS for SMEs)に改めるとともに、こうした非公開企業の会社の状況に応じて、適用を除外する(※監査において一部の基準で定められた方法や表示を行わなくてもよいことです。具体例は後述)という形となります。公開企業(上場企業)の基準はこれまでとは変わりません。

適用時期は原則として2017年1月1日以降に始まる会計期間とされております。したがって、ほとんどの企業では、2017年12月末決算からの適用になるかと考えられます。
さて、一つの大きな変更点は、これまで非公開企業であれば一律にTFRS for NPAEsという非公開企業向けの基準を適用していたのに対して、今回の変更では、非公開企業の種類を“Complex NPAEs (複雑な非公開企業)”と“Non-Complex NPAEs(複雑ではない非公開企業)”という二つのグループに分けたことです。Complex NPAEsに対しては、原則として将来的にはTFRS for SMEsの全面適用を求めるのに対して、Non-Complex NPAEsに対しては、基準の幾つかについては将来的にも適用を行わなくてもよいという形にしています。つまり、IFRS for SMEsの簡略化したものを、Non-Complex NPAEsとして生み出すことにより、あまり資本構成が複雑でない企業については、TFRS for SMEsの全面適用による会計基準の変更に伴う手続きの煩雑化やコストの上昇を抑えるということを図っているともいえましょう。

また、タイの制度として、ほぼすべての企業が外部監査人による監査を受ける必要があるということも、こうした簡略化版のIFRS for SMEsを創出・導入する背景となっているとも考えられます(日本においては、外部監査人による監査が必要とされている企業は、上場企業や大企業等に限られており、ヨーロッパ等でもすべての会社に対して義務付けられているわけではありません)。

基本的なComplexとNon-Complexの会社の差は、資本構成においてPAEs(公開企業)と関係を持っている場合や、他の会社に対して投資をしている企業が、いわゆる“複雑な(資本構成を有する)非公開企業“と分類されています。タイ会計士協会から発表されたものによりますと、次のような条件のどれかに合致した場合にComplex NPAEsとなります。

– 公開(上場)企業の子会社、関連会社、ジョイントベンチャー

– 公開企業に対して、その公開企業の持分を、子会社、関係会社、ジョイントベンチャーとして保有している場合。

– 他の非公開企業に対して、その非公開企業の持分を、子会社、関係会社、ジョイントベンチャーとして保有している場合。

つまり、①公開企業から出資を受けているか、もしくは②自社が他の会社(公開、非公開にかかわらず)に投資をしている場合には、Complex NPAEsとなります。特に②については注意が必要かと考えます。

(以下次号に続く)

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk

 

2016年12月

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