タイ企業動向

第35回「使い捨てプラスチック削減の動き」

世界的な規模で環境汚染の原因の一つとされている使い捨てプラスチック。国際的な環境保護団体(NGO)グリーンピースによると、適切に処理されないまま排出されているプラスチックごみはタイだけでも年間100万トン以上。全プラスチックごみの4分の3を占める。中国、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどに続く世界ワースト6位で、日本などからの輸入ごみも引き受けるありがたくない「ごみ立国」の地位にあるのが実情だ。タイ政府ではこうした汚名を返上しようと、国を挙げてのごみ削減運動を打ち出し、買い物袋や食品用容器などへのプラスチックの使用を控えるよう呼びかけている。企業各社も新たなビジネスチャンスとして虎視眈々と市場の獲得を目指している。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

グリーンピースのまとめによると、世界で排出される不適切処理のプラスチックごみは少なくとも年間3000万トン以上。このうち2000万トンほどが、約44億人と人口の多いアジアから排出されている。最大の排出国は中国で880万トン余り。このうち、200~300万トンが海洋に流出しているとみられている。

東南アジアも排出量が多く、インドネシアで少なくとも年間約300万トン、フィリピンで同180万トン、ベトナムで同180万トンと上位を占め、タイはスリランカの150万トンに続く。そのうち、3分の1ほどが海に流れていると試算されている。

海洋に流されたごみは生態系に影響を与える。5月下旬には南部ソンクラー県の海岸に打ち上げられたゴンドウクジラの体内から約8キロものプラスチック製容器のごみなどが見つかり、タイ政府は衝撃を受けた。

また、1月から中国がプラスチックごみの輸入を禁止したことから、日本をはじめとした先進諸国のこれらごみがタイなどの東南アジアに持ち込まれ、その処理対策が急務となった。このため政府は緊急の検討を進めた結果、2年以内にプラスチックごみの輸入を全面禁止することを決め、関係機関に通達。国民にも使い捨てプラスチック使用を控えるようメッセージを発した。

 

こうした展開を受けて、企業各社は新たなビジネスチャンスの到来として対応を活発にさせている。インド・コルカタ出身の印僑アローク・ロヒアCEO率いるタイの石油化学大手「インドラマ・ベンチャーズ・グループ」。同社ではプラスチックごみの問題の根底には、リサイクルができるかどうか、再生が可能であるかどうかがカギとなって存在すると判断する。

その切り札となるのが、100%リサイクルが可能で、軽く、耐久性が高く、人体を含む生物への影響も少ないとみられるポリエチレンテレフタレート(PET)の普及だ。飲料のペットボトルでよく知られているが、タイヤ製造に使う繊維糸のタイヤコードやフィルム、磁気テープなどでも活用され、応用範囲は広いとみられている。

インドラマ社はこのPET樹脂生産で世界トップクラスの企業。世界的なプラスチックごみ削減の動きが広がる中、産業や人々の暮らしにも欠かすことのできないプラスチック業界の軸足は、今後PETに移ってくると読む。このため、川上から川下まで関連石油化学企業への投資や買収を積極的に進めていく方針だ。

PETの原料となるテレフタル酸の生産で欧州第2位のポルトガルのメーカー「アルトラント」の買収を完了したのは今年初め。これにより欧州での地位を盤石とさせた。また、米イジアナ州にあるシェールガス施設も取得し、原料となるエチレンとプロピレンの生産を進める計画でいる。

原料部門だけではない。米マンハッタン計画にも参加した世界的な化学メーカーであるデュポンと日本の帝人が合弁で立ち上げた、二軸配向ポリエチレンテレフタレート・フィルム(BoPET)とポリエチレンナフタレート(PEN)の米、ルクセンブルク、英、中の4カ国における製造事業も買収。PET生産部門の強化も図った。そして、今年7月、今度はフランスに拠点を置く欧州最大のプラスチックリサイクル企業のソレプラ・インダストリーを買収。川下のリサイクル事業にも本腰を入れ始めた。9月にはカナダのプラスチックごみ処理再生企業ループ・インダストリーと米国での合弁企業設立で合意をしている。

 

プラスチックごみ削減の動きは、流通や小売の業界でも広がっている。流通最大手セントラル・グループでは、傘下のセントラル・フード・リテール(CFR)が展開するスーパー「トップス」や「セントラル・フード・ホール」の全店舗ではプラスチックのレジ袋を月1回廃止する方向としたほか、系列のコーヒーショップでは6カ月で生分解されるというストローの使用を開始した。ライバルのTCCグループ「ビッグC」でも野菜を包装するビニール袋を生分解できるものに改めた。スウェーデンの家具大手のイケアも、タイなど全店で使い捨てプラスチック製品の全廃を進めている。

このほか、プラスチックごみを原料に、強度があって路面の排水性能が高い道路舗装素材の開発に成功した米化学大手ダウ・ケミカルの傘下企業が、タイで工業団地開発を手掛けるアマタ・コーポレーションと組み、工業団地構内での道路建設を進める計画でいる。完成すれば、約2500㎡の道路がプラスチックごみ由来のものに生まれ変わる。インドやインドネシアで実績を持つことから、政府も全面的にバックアップする方針でいる。(つづく)

 

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