タイ企業動向

第37回「タイで進むEV現地生産」

国際的な地球環境保護意識の高まりや堅調な自動車生産の推移から、タイ国内で電気自動車(EV)をはじめとした電動車や駆動エネルギー源となる蓄電池の現地生産を進める動きが広がっている。日本のトヨタ自動車が早ければ2019年後半から蓄電池を年7万個体制で現地生産する計画を立てているほか、自動車先進国ドイツのBMW、メルセデス・ベンツといった大手企業も将来のEV生産を見据えた蓄電池の現地生産化に踏み切った。タイのベンチャー企業なども、EVの組み立てや電池生産などに盛んに投資を進める。動き出したタイのEV生産元年。その現場を追った。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

 

昨年11月のことだった。タイの自動車メーカーや電力会社などで作るタイEV協会(EVAT)の役員らは、工業省から内示された消費者向け優遇政策の概要を聞かされた。一応の評価はしたものの、「まだまだ足りない」と注文を付けた。EVの先進地域である欧州では、自動車登録税の免除や公道での専用レーンの無料走行、駐車料金の軽減など保有者への手当が厚い。示された優遇措置政策「エコEV」では、年間10万台以上生産されるEVやプラグインハイブリッド車(PHV)などの物品税をEVなら10%から2%に、PHVなら25%から5%へと軽減するものの、25年までの時限措置とされていた。

18年の新車販売台数が13年以来の100万台突破とされたタイだが、EVとなると市場は未成熟だ。ハイブリッド車(HV)とPHVを合わせた登録台数は17年に初めて10万台を超えたものの、EVは昨年8月にようやく200台を突破したばかり。だが、それでも政府やメーカーらなど市場関係者はそこに大きな期待を寄せる。

16年から始まった政府の「EVアクションプラン」(~36年)では、フェーズ3の21年以降のタイのEV登録台数を120万台とはじき、充電スタンドが国内に690カ所設置されると見込む。その根拠の一つに、ベンチャー企業や異業種の参入など新たな生産の担い手が加速度的に増えてくるという読みがある。

使用する部品点数が3万点以上ともされるガソリン車に比べ、内燃機関を持たないEVでは、それは15分の1~20分の1ともされる1500~2000点ほどに減少するとみられている。しかし一方で、新たな電動部品の需要が生まれ、再生可能エネルギーの発電事業者などこれまでにない企業の参入が促されるというわけだ。民間の調査会社も、30年代初めにおけるタイ市場のEVの登録台数は60万台に達すると予測する。政府の試算とは2倍もの差があるが、数十万台単位で増加するという点では同様の見方をしていると読むことが可能だ。

トヨタグループでEVの開発に携わった技術者らが設立し、タイで「FOMM ONE(フォム・ワン)」の生産を開始したFOMM(川崎市)はまさにそうした一社。脱着式のリチウムイオン電池を使い、昨年3月に開催されたバンコク国際モーターショーで破格とされる1台59万9900バーツ(約200万円)で売り出したところ、350件を超える成約があった。消費者の関心の高さと潜在的な需要の存在を示すものとして注目を集めた。

意識の高まりは、取り分けEVの要であるリチウムイオン電池など蓄電池の開発、さらにはタイにおける現地生産化により多く向けられている。タイ投資委員会(BOI)もEVの基幹部品である13品目の生産について手厚い優遇措置を与えており、中でも蓄電池には強い関心を寄せる。アセアンとして自由貿易協定(FTA)を結ぶ中国から、安価なリチウムイオン電池などの流入を阻止したい意向だ。核となる電源市場を抑えることでEV産業の誘致や育成が進むとの判断が根底にある。

もちろん、EV生産の拡大に懐疑的な見方も存在する。充電する電力の多くを、二酸化炭素を排出する火力発電で担っている以上、根源的な意味での地球環境保護には結びつかないからだ。EV開発は、再生可能エネルギー開発とのセットで進められるべきという考え方は根強い。ブームにはならないという見方だ。

もう一つが、内燃機関の存続説だ。技術改良が進んだ昨今でも、有効に得ているエネルギー量は燃料本来が持つそれの4割程度しかでしかないという試算に基づく。熱効率の改善余地はなお大きく残され、30年前時点で今より20%以上も熱効率は向上するというのがその骨子だ。この結果、現時点で約45兆円とされる内燃機関にかかる部品市場は、その10年後の40年時点でも50兆円の規模で存続し、同じ時点での電動部品市場はそれに及ばないというのがこの主張だ。

だが、仮にそうではあったとしても、EV化の流れは確実に存在する。使われる蓄電池の国際価格も年々減少をたどり、18年時点のそれは1キロワット時で200米ドルを割り込むまでの水準となった。12年時と比べると実に3分の1以下だ。ようやく動き出した蓄電池を含むEVのタイ現地生産化。大きな希望と可能性を膨らませながら、市場は新しい2019年を迎えようとしている。(つづく。写真は各社の資料から)

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