タイ企業動向

第63回 「新型コロナ感染タイ国内の記録⑪」

12月末から始まったタイの新型コロナウイルス感染第2波は、当初予想されていたよりも制御が進み、早ければ4月初めまでには飲食店や観光施設などでの全面営業が再開されそうだ。感染源となった西部サムットサーコーン県では今なお疫学調査が継続され多数の感染者が見つかっているものの、その勢いも収束に向かっており、1日あたり3桁を切るのも時間の問題とされる。政府や経済界は経済社会活動の再開を念頭に、4月の旧正月(ソンクラーン)需要を当て込んだイベントやキャンペーンの企画立案にも余念がない。一方、国民のコロナに対する警戒心は2度の流行によって一段と鮮明となり、タイの主力産業である観光業の外国人旅行客招致にも今なお慎重だ。経済復興と感染防止を天秤にかけながら、当面は手探りの状態が続くものとみられる。 (在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

感染第2波によって深刻な影響を受けた業界の一つにホテル業界がある。外国人旅行客に人気の高いチャオプラヤー川沿いに建つ観光ホテルは計約8000室。この稼働率が今、一桁台に落ち込み、バンコクのホテル産業は危機的状況に陥っている。高架鉄道BTS沿いに建つ一部のホテルなどは、在宅勤務となった企業や人々を対象に手頃な「リモートワークプラン」を販売。新しい需要の発掘に成功しているが、地の利や目的に合わないホテルは、スタッフの雇用維持にも限界を感じ始めている。  昨年3月から始まった本格的な感染拡大で、ホテルの平均稼働率は昨年1月が85%だったのが、3月には21%、5月には7%にまで落ち込んだ。第1波の抑制に成功し、政府の国内旅行振興策「We travel together」などもあってその後は持ち直したが、年末のサムットサーコーン県での集団感染を機に再び下落に。平均稼働率は12月が12%、1月は「おそらく5%以下」と多くのホテル担当者は試算する。  このため業界では、企業としての法人税の減免や仕事がないまま自宅待機となっている者も含めた全従業員の賃金の補助を求めている。生活必需品の購入支援や小規模零細事業者への助成など国民生活に直結した支援事業については繰り返し実施しているタイ政府だが、比較的賃金が高く、高学歴者が多いサービス業界への支援はどうしても二の次だ。  こうした二重基準は、コロナに対する政府の対応に不満としても現れている。国内の研究機関が1月初旬に行った緊急世論調査で、回答者の98%以上が国の対策の不備により感染第2波が到来したと考えていることが分かった。西部サムットサーコーン県での集団感染はミャンマー人コミュニティーが感染源と見られており、感染したミャンマー人の密入国に国境公務員の関与が取り沙汰される。こうした汚職公務員を放置したのは政府の責任というのが主張だ。  東部ラヨーン県などで見られた違法賭博場での感染拡大についても、警察が手心を加えて摘発したなかったのが原因と受け止められている。折からの反政府デモと合わせて、こうした見解は結びつきがしやすい。不安要素を抱えたまま経済復興が模索されている。(数値などは2月5日時点)

 

2021年3月1日掲載

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