タイ版 会計・税務・法務

【第87回】 BOI企業における、BOI事業と非BOI事業の損益通算について

Q:弊社は、BOIに登録している製造会社ですが、複数のBOI事業(免税事業)と非BOI事業(非免税事業)が混在しています。こうした場合の損益合算について以前から問題になっていると聞いていたのですが、この動きについて教えてください。

A:BOI企業における、免税事業と非免税事業の損益合算については、原則として、「免税事業の損失」と「非免税事業の損益」の損益合算は可能なものの、複数の免税事業が存在した場合の合算の考え方について、①「個々の免税事業で発生した“損失のみ”」を合算して非免税事業の損益と合算をするのか、②免税事業全体の損益を計算したうえで、「免税事業全体で発生した損失」のみ、非免税事業損益との合算を行うのかについて、裁判で争われていました。

①は従前行われてきており、投資法に規定された方法(BOIの見解)なのですが、根本的な考え方として、投資法上は「免税事業の損失は非免税事業の利益との合算は可能」と規定されていることから、免税事業の「利益」に免税事業の「損失」を合算する必要がないということ、および、BOIの免税恩典は各事業に対して個別に与えられることを基本としており、個別事業に対して益金が出ていてもそれは「個別の事業」で免税となっていることから、他の事業における損金とは本来無関係であること、という考え方がベースにあったものと考えられます。

また、一方で、②については、免税恩典はBOIが企業に与えたものであり、プロジェクトとしては個別審査であるものの、税務上の恩典としては一体としてみるということがベースになっているものと思われます。

具体例をあげますと、免税事業A:+50、免税事業B:-100、非免税事業+100の場合、①の考え方では、免税事業Bの-100が、そのまま非免税事業+100と相殺されて、課税所得が0となりますが、②の考え方では、免税事業AとBの合算-50(+50-100)と非免税事業+100の合算となりますので、課税所得が50となってしまいます。

この二つの方法について、裁判で争われ、一旦は2010年に中央租税裁判所において①の方法が認められたのですが、今般5月の最高裁判決において②の考え方(税務当局側の解釈)を支持する判決が出され、この論争に決着をみることになりました。判決内容については、いろいろと疑問があるものの、実務的には、②の税務当局の考え方に沿った取り扱いをすることが必要になります。

なお、この判決に沿って、一定の猶予期間を設けるべく、税務当局よりは8月1日までのBOI企業に対する罰金等が発生しない申告期限および還付期限の延長措置が出されています。それ以降は、①の方法で計算をして申告を行った場合には追徴課税等が発生するかと思われますので、再度計算方法をチェックすることが必要かと思われます。また、これは単年度だけの問題ではなく、過去の繰り越し損益の計算や利益配当/配当源泉税(BOIで免税されている事業利益の計算)にも影響を与えますので、過去の計算方法において②の方法で計算をされていたかどうかを確認することをお勧めいたします。

 

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク ディレクター

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk

 

2016年8月

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