タイ版 会計・税務・法務

【第102回】労働法の改正について

Q:労働法が最近改正されたと聞いたのですが、どのような内容でしょうか?

A: 8月31日付で2017年労働者保護法(No.6)が発布され、2017年9月1日より発効しました。改正点の概要について、以下の通りお知らせと解説をさせていただきます。
1)最低賃金について;労働者保護法では、賃金委員会において特定のタイプの就業者(学生や高齢者等)についても決定する権限を与えていますが、こうした特定のタイプの就業者に対しても、通常の最低賃金を下回る賃金設定が禁止されています。例えば、1日(8時間)の最低賃金が300バーツの場合、学生等に対しても、時間あたり37.5バーツの時給を下回ることはできません。
2)就業規則コピーの労働局への提出義務の廃止;これは、以前本欄でもお伝えさせていただきましたが、正式に提出義務はなくなりました。ただし、作成義務は残っておりますので、たとえ提出義務がなくなったとはいえ、10名以上の従業員を雇用した場合には、作成が必要です。
3)定年の規定について;労働者保護法では、定年年齢を雇用者が決める、雇用者と被雇用者間の契約で決める、もしくは労働協約等によって決める等の方法が許されていますが、定年は雇用関係の終了と(※解雇と同等の取り扱い)みなされます。また、定年年齢が定められていない、もしくは契約により60歳以上に規定されている場合には、60歳以上の被雇用者は30日前に通告により、定年退職をすることができ、またその際には解雇された場合と同じ退職金を得ることができます。これまで、定年退職については労働者保護法に明確に規定されていませんでしたが、今回の改訂によって60歳の定年年齢が明確になり、かつ、定年退職時には解雇と同じ退職金(解雇金;Severance Pay)を雇用者が支払わなくてはならない旨も明らかにされたといえます。もともと55歳定年を規定している企業も多く、また退職金規定も解雇金と同等もしくは多めに設定している場合もあるかと思いますが、改めて法律に合致しているかどうかを確認しておくことも良いかと存じます。

なお、この定年年齢の明確化は、会計面でも影響を及ぼす可能性があります。すでに、就業規則で定年が明確化され、かつ、退職金の額が法律に適合した形で運用されている会社様は特に問題はないかと思われますが、定年がこれまで規定されておらず、退職給付債務を認識していなかった場合や、今回の改定に伴って退職金給付額の割合を変更しなければならない場合には、退職給付債務の認識額を再計算する必要があります。現在のタイの会計基準では、退職給付債務は“最善の見積り”によって計算することが求められており、必ずしも年金数理士の利用による給付債務の計算は必要ありませんが、計算自体は必要ですので、今回の改訂によって計算の変更が必要な場合には、次の決算期末で調整が必要となってきます。

 

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk 

 

2017年11月

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