タイ企業動向

第27回 タイのエアコン市場

 外気温がほぼ一貫して30度を超えるタイで、暮らしにもオフィスにも不可欠なものがエアコン。ひとたび商業施設や運行車両の中に入れば、肌寒いほどの冷気が皮膚を刺し上着を取り出してしまうほど。それでも人々はスイッチを切ることはせず、ビルというビル、マンションなどあらゆる建造物にエアコンは備えられている。ところが、その生産・流通の現場がどのようなものであるのかは意外と知られていない。タイ企業動向の今回は、日系ほか外国企業とローカル企業が群雄割拠してしのぎを削るタイのエアコン市場について。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

 

2017年のエアコン市場は、タイの本格的な夏である4月から6月上旬にかけて気温が上昇せず「冷夏」だったことや、プミポン前国王(ラーマ9世)の崩御に伴う自粛ムードなどで消費が低迷したことで、前年比10~15%も売り上げがダウンした。このため、多くのメーカーで対前年比実績割れとなって、翌年である今年に攻勢をかける動きが強まっている。

主要メーカーへの聞き取りを元に記者(筆者)が試算したところ、タイのエアコン市場は15年の時点で総売上額220億~240億バーツ、台数にして120万~130万台だったとみられている。翌夏が猛暑だったことから16年は売り上げが増え、金額で約280億バーツ、約140万台のエアコンが家庭やオフィス、商業施設などに新たに設置されたものと考えられている。

ところが17年はすでに触れたように消費が低迷。メーカー各社が期待を寄せたにも関わらず、販売実績は総売上額で250~270億バーツ、台数にして130万台前後に止まったとみられている。メーカーによっては、それまでのフル稼働生産を一時的に中止したところもあった。

今年18年については、前国王の喪が明けたことや、自動車などの製造業を中心に一部に明るさが見え始め、国内総生産(GDP)の成長率が4%台を回復するとの見通しから回復するとの見方が強い。順調に進めば、タイのエアコン市場初めてとなる300億バーツを超える可能性があるほか、販売総数も150万台超の大台が見えてくるという。こうした情勢を受けて、積極的な企業の取り組みが既に始まっている。

 

タイのエアコン市場で「トップ5」とされるのが、日本の三菱電機、ダイキン工業、パナソニックと、韓国のサムスン電子、それにタイローカル企業で知られるサイジョー・デンキだ。海外輸出や相手先ブランド生産(OEM)、さらには業務用の比率が高いメーカーもあって簡単に比較できない点も残るが、この5社の動向がタイの国内販売市場を大きく左右していることには違いがない。

このうち三菱電機は家庭用エアコンでシェアトップの30%強のところ、さらなる浸透を目指して省エネ型の中価格帯新機種をこのほど一斉発表。4月からのシーズンに備え、インバータ市場でもシェア40%を目標に首位を狙う。一方、これを受けるのがインバータでトップのダイキンだ。ラヨーン県の工場でコンプレッサー(圧縮機)の生産能力を引き上げて対抗する。

パナソニックは昨年2月からタイでの現地生産を開始した。各社が軒並み売り上げを落とした昨年であっても、わずかながらも前年比増加を達成。微小粒子状物質PM2.5を除去する高付加価値製品を投入するなどして、今後も上積みを図る考えだ。20年までのシェア首位を目指す。サムスンも高付加価値製品で売上増を狙っている。

意外に思われるのが、タイ地場メーカーのサイジョーの存在だ。その名から日系と間違われそうだが、れっきとしたローカル企業。これまで、従来型の廉価機を中心に業績を伸ばしてきた。業界首位が見えてきた昨今は生産能力をさらに引き上げるため、バンコク北郊ノンタブリ県の工場に加えて、新たにアユタヤ県ワンノイで新工場(敷地面積約270ヘクタール)を建設する計画を進めている。5年後には販売する全機種でインバータ搭載型に切り替える意向で、達成できれば年間の生産台数は100万台に乗る。

サイジョーが注目されるのは、タイ国内に止まらず海外販売比率も高めようとしている点だ。17年の時点でのそれは約40%。これを18年中に50%に伸ばし、さらに引き上げていく。ドイツやイタリアといった欧州市場、オーストラリアなどのオセアニア市場を軸に、中東市場や日本への輸出も広げる計画だ。

 

業界関係者の試算によると、タイ国内におけるエアコンの普及率はバンコク首都圏で約50%、地方も含めた全土ではいまだ約30%に過ぎない。メーカー各社とも「まだまだ普及の余地はある」としており、競争はさらに激しさを増しそうだ。

また、サイジョーと同様に輸出に期待を向けるメーカーも少なくない。富士通ゼネラルはチョンブリ県に研究開発(R&D)センターを開発し、輸出色を鮮明とした。三菱重工もバンコク東部ラッカバンに新工場を開設。生産した大半のエアコンを海外向けに輸出する計画でいる。このように、国内・国外両市場で堅調に推移しているタイのエアコン市場。当面の行方は、この夏の陽気一つにかかっているようだ。(つづく)

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