泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第56回『タイ的民主主義と新憲法の特徴』

タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は、バンディットTNI学長が2016年11月に行ったJセミナー「タイ政治の今後とタイ的民主主義」の中で、タイ的民主主義と新憲法の特徴に焦点を当てます。なおパワーポイントで配った各項目テーマの本文の後に➡マーク後の文章がありますが、その時解説されたものです。

2. タイの民主主義の問題点

• 政治家の責任感、誠実さ(多くの政治家は政治を一種のビジネスとして考えている)
➡政治家は、政治をビジネス投資として儲けに繋がると考えている。マスコミ・ジャーナリストの機能は良く果たされていない。権威・権力は官僚が持ち、彼らは国民のためとは言えない。
• 平等社会ではなく特権を認める社会(歴史的に階級社会が長く続き、民主主義になってからもエリート層に特権を与える仕組みがある)
➡特権を認めるのはアユタヤからラタナコーシン時代の歴史で、1868年(明治維新時)即位のラーマ5世がチャクリー改革を行い、平等思想を導入。しかし日本みたいにピンと来ない。残念ながら、官僚や金のある実業家が特権を持つ存在で、タイの有名なドリンクメーカーのオーナーの息子が酔っ払い運転で、ひき逃げしたのが分かってもそのまま捕まらず、自宅に居られる状態。
• 国民の結集力が弱い(政治家の悪質な行為や官僚の力で抑える)
➡国民の結集力も弱く、悪徳政治家の指図で官僚が動き、許認可も。反政府・反対運動をしている人はいじめられる。1992年の騒動時は、タイのTV局は1局もタイ国内で報道せず、CNN放送で事実が分かる状況だった。その反省で、I(インディペンデント)TVが出来、その後Thai PBSに受け継がれ、政府の影響を受けない方針。
• 言論の自由の乱用(真実に基づかないことを平気で言う)
➡一方で、言論の自由の乱用があり、事実に忠実なジャーナリストが出ない。黄・赤シャツの争いが2006年にあり、お互い相手の言うことを聞かず、ヘイトスピーチがあり、両者の共存(協力)は今もない。マチチョンの記者で1999年当時のタクシン氏の経過を調べた記者などがいるが、タクシン氏は政治広告やオーナーへのプレッシャーを使いジャーナリストの行動を縛った例がある。また中立や社会のための記者も少なく、プレッシャーがあり、どっちもどっちの観。
• 公益よりも私益(公益のものを私益のものにする習慣がある)
➡例はスクンビットなどの歩道に露店がいろいろ物を置いて販売し占有。歩行者は自動車道を歩かざるを得ない。公益を守る習慣がない。

2.2. タイの民主主義の問題点(2)

  • 政治権力は軍部・官僚から政治家・官僚に移行したが、根本的な問題は国会があっても国民のための法律の改正や提案があまりにも少ない状況
  • 地方自治体・分権がスムースに進まない(1997年の憲法で大躍進したが、現憲法は後退)
    ➡地方分権は、97年当時は政策も地方向きのものがあり、ある面良かった時代。

教育改革は質的な改革がまだ不十分(教育省は一番多くの予算を取っているが、成果ははっきりと出ていない)
➡教育改革は、人材育成面で予算は全体比19%とかなりあるが、質が足りず、TNIとTPA(泰日経済技術振興協会)の存在意義があると言える。

3. 新憲法の特徴

  • 2016年8月に国民投票で可決された新憲法は次のような項目が取り入れられた。
  1. 議員でない外部の者が首相になれる。各政党は事前に首相候補を3人選定し公示する(中に外部の人を含んでもよい)

➡プアタイ・民主党は、党内で選ばれた者とバッティングし、実際は使われない可能性が大。

  1. 衆議院(下院)は小選挙区(350議席)と全国区(150議席)を1票だけの投票結果で、政党の当選総議員数は得票率より多くならないと設定する。

例:A党が得票率44%を得たと仮定し、その党が小選挙区ですでに40%の議員を獲得していれば、全国区は残りの4%に相当する全国区の議員数しか割り当てられない(500x44%=220人)

➡これまでは、小選挙区1票、全国区1票であった。今回は小選挙区1票だけで、選んだ人の党を選ぶ。小選挙区で225席をとり、全国区に割り当てられないこともある。

  1. 汚職や選挙法違反で有罪判決が下された人は立候補できない
    ➡汚職者、違反者は5年から生涯。
  2. 上議院は200議席で、職業別の代表者たちから選び出す
  3. 憲法改定の可決は衆・上両議院の過半数を必要とすると同時に野党総議員数の20%以上、上議院の1/3以上を含まなければならない
    ➡実際上は改定できない。
  4. 憲法に記述されない行き詰まり状況に陥ったときは衆議院議長、首相、野党指導者、憲法裁判長、オンブズマンなど7つの独立行政機関長で構成された委員会で解決する➡インラック暫定政権では何もできなかったのでこの条項を入れた。(続く。次号は、新憲法の特徴要約と総選挙を取り上げます)

編者 吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問

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