タイ版 会計・税務・法務
第132回 今回のテーマは、タイにおける新型コロナウィルス(COVID-19)への対応です。
Q:新型コロナウィルス(以下、新型コロナ)の拡大にともない、タイの事業運営について、急な対応が必要となってきていますが、特に従業員関係について教えてください。
A:タイでも新型コロナ感染拡大へ対応のため、様々な処置が出されていますが、今回は従業員に関連する事項に絞って、ポイントを述べさせていただきたいと思います(なお、個人情報保護法「PDPA」の続編については、次回掲載させていただきます)。
──従業員に感染者や感染の疑いの濃い者が発生した際のお給料の支給はどのようにしたら良いでしょうか? 新型コロナ感染による「休職」については、労働者保護法の規定はあてはまらないと考えられております。したがって従業員は感染した場合には通常の疾病休暇を取得し、それで足らない場合には、有給休暇をとる形になります。 また、感染の疑いが濃く隔離処置が必要とされる場合には従業員に有給休暇を取得させる形となります。いずれの場合も、有給休暇の残りがなくなれば、会社は欠勤扱いにして給与を支払わないという形をとることが可能です。
──在宅勤務を導入したいのですが、注意点はどのようなものがあるでしょうか? 通常から在宅勤務を想定した社員規定を整備されている会社は多くないと思われますが、それに対応した社員規定をまずは準備することが必要と思われます。典型的な在宅勤務規定では、在宅勤務場所の安全性確保、情報セキュリティー、在宅勤務中の連絡方法、報告・承認方法、等が定められています。
──休業の場合の取り扱いはどのようなものがあるでしょうか? まず、政府からの休業指定が完全な形で出されている業種については、当該休業期間中の給与を支給する必要はありません。例えば、美容院等が該当します。それ以外の休業は労働者保護法75条で定められているいわゆる「自主休業」になり、雇用者が「不可抗力」以外で休業を行う場合、3日前までの従業員への通告、および、労働局への届出で、給与の75%を支払いつつ休業ができるものです(「不可抗力」に該当する場合には給与を支払わなくても良いのですが、新型コロナの影響との直接的関係がないと、「不可抗力」を理由に給与を支払わない「休業」をとることは困難かと思われます)。
──解雇は可能でしょうか? 解雇については、法的解雇金を支払えば原則としては解雇可能です。もっとも、恣意的な解雇や正当な理由がない場合には、不当解雇として訴えられるリスクもありますので、その点には十分に留意し、また法律で定められた手続きに沿って行うことになります。
なお、今回の新型コロナの影響による休業や解雇により、給与が受け取れなくなった従業員に対しては、社会保険より給付金が支給されますが、「新型コロナの影響」の範囲がどこまで認められるかは、ケースバイケースと考えられますので、この点も注意が必要です。 今後は、景気の悪化等、新型コロナ感染の間接的影響を受けた事業リスクが高まると考えられます。その意味では、成長を前提とした戦略ではなく、短中期的には売上減少への対応という、守りを固める戦略を考慮することも必要かと考えます。
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
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20年5月01日掲載