タイ版 会計・税務・法務

【第112回】 外国人事業法規制業種の改定について

Q:外国人事業法で規制されている業種について変更があると聞きましたが、どのようなものでしょうか?

A:駐在員事務所の事業活動について商務省への申請が必要無くなるなど、外国人の事業活動について緩和処置が進められていますが、商務省では規制リストから外す業務(業種)を追加する方針のようです。正式発表は本号が出る9月頃の予定とのことで、本項執筆時点では、決定したわけではありませんが、現在の情報をもとにご説明させていただきます。

まず、今般、規制から外されることが予定されている業務としては、以下のものが挙げられています。1)子会社・関連会社に対する会計業務の提供、2)子会社・関連会社に対する法務サービスの提供、3)子会社・関連会社に対する電気・水道等をともなう賃貸サービス、4)子会社・関連会社に対する貸付、5)子会社・関連会社に対するアドバイザリーサービス(助言業務)。

商務省によりますと、これらの分野の解放にあたっては関連省庁の同意をすでに得ており、かつ、当該分野解放におけるタイ企業への影響は限定的なこと、およびこの処置は国家方針であるタイランド4.0に資することから、緩和を進めるとのことです。

今回の緩和で特徴的なのは、子会社・関連会社に対するサービスに限定されていることでしょう。これは基本的な考え方として進出してきた外国企業を「単独の会社」とみるという考え方から、多国籍企業の一つの拠点、としてとらえなおして、当該多国籍企業グループ内におけるサービス取引については、そもそもタイ企業との競合の可能性が少ないこと、加えて、外資企業が多数進出するにつれて、実際にグループ間取引について、多くの事業認可申請が商務省に行われている実績から、グループ企業内サービスの緩和は、外国企業の投資環境改善に大きく資する一方で、タイ企業への影響は限定的であるとの判断があったのだと思われます。

例えば、1)の会計業務の提供は、大きな工場で経理を持っている会社であれば、新しく進出してきた販売系の会社の経理業務を既存の工場経理部門で一括して行い、新販売会社では経理部門を特別に設ける必要がなかったり、3)の賃貸ができるのであれば、新しく進出してきたグループ会社に場所を貸したりすることも可能になると考えられます。また、4)については以前よりタイの子会社に資金が滞留しており、配当等での本社還流や、他の資金不足の会社への資金投入が難しかった企業においては、大きな朗報であるといえましょう。

一方で、この緩和処置は、こうしたグループ間サービスの提供をある意味「BOI-IHQ制度」の中でのみ取り扱ってきたタイの制度の大枠の大きな変更であるとも言えます。また、4)の貸付についても、商務省への個別申請等においては近年実務的に厳格化が行われてきたことに対して、むしろ反対の動きとなっているのではないかと、個人的な印象を受けます。

まだ、当該緩和処置が正式発表となっておらず、例えば子会社・関連会社の定義等詳細が不明なこともあり、詳細が発表されてから、改めて本件については解説させていただければと考えております。

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk

 

2018年9月

  • Facebook
  • twitter
  • line

関連記事