泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第44回 『タイと日本での連携教育指導』 

タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は、Daiwa Kasei (Thailand) 社のTNI卒業生への教育指導をご紹介します。タイで必要な日本技術に焦点を当て、大学での基礎とタイでの事前訓練を合わせ、日本での各種専門技能、日本語力、日本企業文化などの習得指導は大いに参考になります。本稿は、2015年11月にTNIで実施したJセミナーの事例発表を筆者が要約したものです。なおNo.40-No.44をTNIニュースレターNo.10「日系企業人材育成とTNI生」としてまとめました。合わせてご参考にしていただければ幸いです。

「タイと日本で連携する我が社の中核人材教育」  Daiwa Kasei (Thailand) 社(DAT)甲村 嘉康 代表取締役社長

会社概要:我が社は1995年9月に設立、ロジャナアユタヤ工業団地3(フェーズ8)に立地、主に自動車用のワイヤーハーネス・クランプや内・外装用クリップ等を製造。従業員は886人。

  1. DATの研修生プロジェクトの背景

日・タイ双方のニーズが一致してタイプロジェクト=TNI研修生プロジェクトが開始された。日本側:海外拠点の仕事のローカル化ニーズの高まりと共に、本社の小島プレス工業に「中国研修生プロジェクト」の経験があり、他の海外拠点にも展開したい意向があった。タイ側:将来的にタイ人で運営できる会社の布石として、日本語で仕事ができる幹部候補生を養成したく、日本語を学習するTNI卒業生をターゲットとして発足。

  1. DATのタイ研修生プロジェクト概要

小島プレスは、「会社は単に儲けるだけでなく、世間に還元して役に立つ会社でなければ、存在意義が失われる」との小島鐐次郎会長の考えに基づき、人材育成を中心に海外との交流を図ってきた。そして、2006年8月以来中国青海省から9期115人を受け入れ、日本語、生活ルール、日本の文化習慣教育は自前でやってきてもらい、自動車部品のものづくりと管理運営を各2年間研修提供してきている。

このプロジェクトの前までは、受入の日本側も外国人に慣れていなく、大変苦労した。この経験を元に、日本の研修で一番大事なことは「日本語」によるコミュニケーションと認識。また本プロジェクトを開始するにあたり検討した結果、中国研修生と同様に日本語教育や日本文化教育、地域との交流を行い、海外研修生の人財の育成を図ることにした。

  • 中国研修生プロジェクト同様、大学新卒者を派遣(→新卒時に日本(会社)文化をすり込む)
  • 日本語をある程度習得している者を派遣する。
    →①②の条件を満たす者として、大学で日本語を必修としている、TNI卒業生が適任と考え、2013年よりTNIで日本派遣を前提とした採用を開始。
  • 今後の予定:継続的にTNI卒業生を採用予定。特に優秀で、DATで働くことを目的として大学で勉強に励んだ学生を採用するためのトライアルとして「TNI個別奨学金制度」を利用している。

3.小島プレスでタイ研修生の受け入れ開始

2013年10月より中国研修生と同様の内容で、研修生受入れを開始した。DAT入社後、訪日前には、職場実習と日本語能力試験N5・N4の日本語訓練を実施。日本では導入教育、各職場に合わせた専門研修、工場管理研修と共に、寮で生活訓練・地域交流、寮生活動を行っている。日本語は、この時期N2・N3を目指している。また社長講和、工場見学、研修報告会、タイフェスタなどのメリハリを考えた行事を行っている。なおタイでの事前研修は、第1期6カ月間であったが、日本語力と業務理解を事前に強化する理由などから2期9カ月、3期15カ月と長期化した。日本研修は下記の通り:

  • 1期生 2013年10月から6カ月間、工学部・経営学部出身の5名を派遣
  • 2期生 2015年1月から1年間、工学部・経営学部出身5名を派遣
  • 3期生 2016年6月頃から経営学部出身7名を派遣予定

 

4.ジッタメット(ニック)君:2013年に経営学部を卒業し、日本で自動車部品の見積りなど営業研修を受け、同時に日本語検定N2級に合格した。社長講和、4S活動など印象深い。また日本の文化活動、お茶会、旅行などでホームシックを感じなかった。人生の良い思い出になり、家族の一員として扱っていただいた。また日本とタイの仕事の違いを学び収穫だった。

5.技能習得の取組み

各職場で要求される技能を身に付けるため、日本語教育は通年で行い、習熟に応じて社内認定技能評価、定型教育に、日本人社員と同等の条件で挑戦させてきた。結果、社内認定技能評価、定型教育ともに、挑戦した全ての試験に合格することができた。

  • 社内認定:計測作業 3名合格、樹脂成形作業1名合格、手吹き塗装作業1名合格
  • 定型教育:原価2名合格、PM2名合格
  • 日本語能力試験:N2合格者1名、N3合格者3名

6. タイ研修生プロジェクトの評価

  • 日本側のサポート:中国研修プロジェクトのノウハウがあったため、スムーズに研修が進んだ。
  • 成果:個人差はあるものの、スキルアップと日本語能力も1段階アップした。特に生産現場では日本のノウハウ導入に役立ち、研修生も満足感あり。
  • 今後の課題:帰国後のフォロー体制をまだ設けていなく、幹部養成フォロー研修体制を検討したい。

筆者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問

 

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