泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第57回『タイの新憲法と総選挙後のシナリオ』

タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は、バンディットTNI学長が2016年11月に行ったJセミナー『タイ政治の今後とタイ的民主主義』の最後で、タイの新憲法と総選挙後のシナリオに焦点を当てます。なおパワーポイントでセミナー参加者に配った各項目テーマの本文の後に➡マーク後の文章がありますが、その時解説されたものです。「タイは現状チェック&バランスの仕組みがあり、時間はかかるが発展する」と学長は見通しを語っていますが、大学の教育改革も「TNIの6つの中核価値」の推進のように教職員・学生の意識改革から始めています。

1. 新憲法の特徴(前号2からの続き)

時事項に最初の5年間は次の項目が入っている。

1. 国会での首相の指名は、事前に公示していない議員でない外部の人もできる。ただ衆議院(下院)・上院の両議院2/3の賛成を必要とする。

2. 上議院は250議席と定め、その中の200議席はNCPO(国家平和秩序評議会)が選出し、残りの50議席は間接選挙で選出された200人から選ぶ

➡現暫定政権が選ぶ。全議員750人で、上院議員の支持がないと376人の過半数はとれない。

3. 上議院を含む国会全議員で首相を選定する(国民投票で追加質問が可決したため)

➡新憲法下、軍部関係の人が首相で4年間続く。次期も首相を再指名し、例えば、4+4年で8年の可能性がある。3年間の暫定政権を含むと11年間続くことになる。

新憲法の特徴要約

選挙に立候補できる政治家の資格を厳しくする

  •  無責任的なポピュリズム公約や政策を規制する(政治家に責任を負わせる)
  •  独立行政法人の権威を強化し、政治家と力の均衡をとる
  •  憲法改定が容易にできない(最初の5年間)
  •  衆議院(下院)総選挙で過半数を取ることが難しい

➡政府は11月初めに国王就任を提案したが、12月にずれ、結局8月の国民投票から4カ月後の12月に憲法が承認される可能性大(→2017年1月新国王による修正の意向に基づき、2月修正案が王室に再提出され、4月6日国王署名、新憲法が公布される)。

 

総選挙までのロードマップ

  • 新憲法の制定,国王承認→国民投票可決から4カ月間(CDC=憲法起草委員会は政府に提出し、30日以内に政府が受諾して王室に提出し、90日以内に国王の承認を受ける。実際はCDCが憲法裁判にあいまいなところを明らかにするために判決を求めたため、2カ月分遅れている。新国王の即位後、12月内に承認が降りれば全体の予定は影響されない)。
  • 新憲法で定められた10の憲法付属法を作成し制定する→8カ月間
  • 総選挙準備・実施→5カ月間
  • 合計で国民投票日から17カ月間以内に総選挙が行える(遅くても2018年1月になる)
    (上記のようにワチラロンコン新国王の一部修正要請に従い、4月6日に新憲法が公布され、総選挙は2018年11月頃までに実施される見込み)

総選挙後のシナリオ

2つ の シナリオ

1. 衆議院選で過半数をとる政党はない
➡この場合、首相の指名は議員でない外部の人になる可能性が強い(上議院の選任投票権)。
➡現政権継承の可能性が高い。

2. 過半数を取る政党がある

➡この場合、その党の代表が首相に選任されるか、または選任されない可能性もある。選任されない場合はやはり議員でない外部の人になる可能性が強い(いずれにしてもプアタイ党が衆議院の半数に近い議員数を獲得した場合、政権の運営は相当な透明さと成果を出さないと不安定になる恐れがある)。

➡プアタイ・民主党とも過半数を取れない可能性が高く、この2大政党の協力も難しい。何回も投票を繰り返し、外部の人(軍部の偉い人)を指名→結局今の首相の可能性が高い。そしてこれからの政府はインフラ・プロジェクトに力を投入する見込み。

NIDA(タイ国立開発行政大学院大学)の世論調査(8月30-31日)

⋆NIDA: National Institute of Development Administration

  •  プラユット首相が選挙後も継続することに対する意見

→60.8%は妥当、理由は今までの成果を評価

→25.8%は妥当でない、理由は言論の自由や経済運営に成果がはっきり出ていない

  •  継続した場合、政権の運営はもっとスムースになるか?

→42.8%はもっとスムースになる

→19.7%は、選挙前と変わらない

→24.88は、選挙前より難しくなる

➡結局6割以上は現状を肯定し、政権はプレーム政権に似たものになる可能性が大。

 

暫定政権の成果

新憲法の制定:1997年と2007年の憲法に比べてより非民主的だがタイの経済社会の現状に合うと思う人が多い

  •  2018年1月までに衆議院総選挙が行えるので民政復帰になる
  •  暫定政権が法律を特権・非特権の差なく施行して、特権・金権・汚職の排除に一定の貢献
  •  国の予算での調達で、汚職防止措置を取り入れる

暫定政権の政策課題

法律改革のために多くの民間専門家を起用しているが、暫定政権の残りの期間でできることは限られ、大きな改革に結びつくことは期待できない

  •  戦略的産業の設定やスタートアップ支援政策の実行(始めたが、成果はこれから)

➡タイは時間をかけて発展。現状はチェック&バランスの仕組みがあり、軍部そのものもスチンダー将軍・政権のように失敗は出来ないと思っている。最終的には国民の力で課題解決し、公共インフラ投資などで経済を良くするシナリオ。

編者 吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問

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