泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第59回『TNI設立10周年を迎え、小さくても光り輝く大学を維持します』

タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。TNIはおかげさまで10周年を迎えます。記念の本年8月2日には、ささやかながら国際フォーラムを開催し、今後の5カ年戦略計画を公表、10周年誌も発行します。また同4日は学園祭を開催します。今号では、スポン理事長にTNI設立の経緯、タイ産業や日系企業に対するTNIの社会貢献努力、関係機関との協力、今後の計画など10点について話してもらいました。

TNIスポン理事長に聞くTNI設立10周年

  •  ・TNI設立の経緯:TNIの親機関であるTPA(泰日経済技術振興協会)は、1973年の設立以来、技術大学を将来作るという夢を持っていました。設立28年目の2001年、私はTPA会長になり、具体的に委員会を作ってこの夢を検討し、2005年に設立を決定しました。TPA設立当初も人材育成のセミナーを担当しており、今日では社会人は主にTPA、学部生と修士についてはTNIという分担でやってきています。
  • TNIの特長:タイでは大学は学部だけの単科大学から総合大学まで170あまりあります。ヒト、モノ、カネを考え、工学など3学部に修士課程を入れた、今のインスティチュートにしました。数百人から出発し、今の4~5千人規模になりましたが、「小さいながらも光り輝く大学」として、在タイ日本国大使館、泰日協会、バンコク日本人商工会議所やタイ政府教育省など様々な機関のご支援、ご協力をいただきました。幸い日本国内も、カウンターパートのJTECS(日・タイ経済協力協会)を通じて、色々なご支援をいただけることになり、感謝しています。
  • 泰日の名前:名前も両国を表す、泰日を使用でき、ものづくり教育を通じてタイの工業発展の人材を輩出して貢献するなど、特徴ある内容を進めることができました。TNI卒業生も近い将来、組織の中核メンバーになると確信しています。
  • 資金:当初資金は5億バーツで、後ほど同額に近い借金をしました。そして今の16ライ(25,600平米)の土地の9ライを購入、建物は当初2棟建設、ヒト、モノの手当を含め、毎年1億バーツがいる状況でしたが、幸いTNI設立5年にして経済性もうまくはかどり、感謝しています。今は大きな校舎も4棟立ち、あと1つ建て、その後、概観は暫くこの状態を維持し、内容の充実に努めます。
  • 今後の計画:当面5千人規模で、小さくても光り輝く大学を維持し、特に研究面にも力を入れ、再教育を含め教師の能力向上・経験を充実する予定です。また今のタイ国政府の中進国の罠脱出の鍵を握る産業高度化に応えるためにも設計開発人材や工場の自動化に積極的に貢献できる人材育成に努力します。日本のものづくりも深化し、製造業だけでなくサービス産業にも応える人材育成を日本企業とも協力し、応えていきます。特にアセアン経済共同体が発足し、英語がますます重要になるので、来年度から各学部に新設学科をつくり、アセアン各国及び日本からの学生を招く計画です。
  • 学生の産業界就職と中核産業人材としての活躍卒業生の就職は、これまで6期にわたり100%であり、日系企業のご支援と評価を高く受けています。大学では、専門力や語学力のほかに倫理・価値概念の6つの中核的価値を学生に体得させ、自分を磨き、また組織力向上に努めてもらっており、Quality of Life、 Quality of Work向上に役立ち、これからの産業社会に活かされると確信しています。TNI卒業生はまだ6期までで、希望者は全員就職していますが、起業者、フリーランサーなどは別として、これから会社の幹部になる状況で、このTNI中核価値を活かせば、活躍できると確信しています。
  • TNIの技術移転(日本の技術を知る元留学生・研修生の経営陣が、日本とは環境が違うタイ(外国)で、主体的に導入・普及する試み)と今後:TPAスピリットは、日本人貢献者の穂積五一先生のスピリットと言える「金を出しても口を出さない」縁の下の力持ちの役割を50年近く担っていただいた、日本のJTECS(日・タイ経済協力協会)やその支援者の努力を受け継いだものです。1970年初めは、ご承知のように、日本商品ボイコットから反日的な運動があり、MITI(METIの前身の通商産業省)の意向を理解した穂積先生が、最終的には愛国心を持って共存共栄を図る、元日本留学生と研修生の夢を実現するタイ国社会の改造・改善運動でありました。
  • 私たちは大いなるインスピレーションをもらいました。最初は、タイ政府の理解・評価もあまりない状況で出発し、単なる金を出すことでなく、例えば5Sのように、AOTS(海外技術者研修協会=現海外産業人材育成協会=英文略称は同じ)の日本企業の現場訓練のやり方が、アジアやタイの企業に革新的な役割を持つことをまねることから始めました。おかげで今は、タイ日の個人、企業、団体、政府がウイン・ウインの関係を、私どもを通じて持てる状況になりました。
  • 今後は58の日本の協力大学との提携を進化させ、教員の能力を向上し、タイ社会に貢献します。
  • TNIの(日本の環境でない、外国で実施する革新的)ものづくり教育の有用性上記のTPA=TNIスピリットを持ってのものづくり教育のようにハード・ソフト面の導入に努力してきましたが、タイ人にどこまで通じるか、残念ながら1/3は失敗だったかもしれませんが、6割は成功であったと自己評価しています。
  • タイの産業力・技術力向上(TNIの研究・開発・技術革新努力):ものづくり教育を含め、日本のハード技術だけでなく、ソフト技術も重要で、民間会社とのネットワークを拡充していきます。
  • 国際協力と貢献TNIは、これまで日本のMETIやABKやAOTSも同じ心を持ち、タイの産業界やタイ国、AECへの貢献に努力してきました。今TNIでは、アセアン各国や日本の学生を招く、国際プログラムを準備していて、これがこれからの時代に必要で、活躍できる人材になると確信しています。またアセアン地域では元アセアン留学生会のASCOJAがあり、このネットワークなどを通じ、日アセアンの仲立ちをしたいと思います。

筆者 吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問

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