タカハシ社長の南国奮闘録

第91話 アメリカの合理性

2カ月間にわたり、テクニアのアメリカ法人の名称変更と現地スタッフ採用、事務所の移転、マーケティング(北米の景気動向)など将来に向けた準備をしてきた。

私の見てきた北米市場はこれから先4年間、景気が良いと見込まれていて、失業率も低水準を維持している。

自動車市場は、電気自動車やハイブリットに移行するような流れはほとんど見られない。ニューヨーク周辺では見かけたものの、全体的に見れば未だガソリン価格は安いし、広大な国土の移動手段として大型ディーゼルを含む内燃エンジン車が市場を陣取っている。

そもそもアメリカとはどういう国なのか、私の経験を交えてお伝えしたい。

以前、ある航空会社を利用した際、大規模なオーバーブッキングに見舞われた。当日、私のチケットにはシート番号がなく、おかしいなと思いゲートカウンターに行くと、後ろに子連れの女性がいて、子供がすすり泣く声が聞こえた。彼女は臨床心理士とのことで、帰らないと仕事に支障が出て困ると焦っていた。そんな折、目的地から100キロほど離れた空港へ飛ぶ便が間もなく発つことを知った彼女は、急いでその便に乗る手続きを済ませ、チケットを受け取り走っていった。

一方、私はそのまま予約した便に乗れるかもしれないと思い、アナウンスを待った。ところが、しばらくすると搭乗ゲートが閉じ、私を含め35人ほどがその場に取り残された。まさか……!?

近くに降りる便に変更してもらおうと、慌ててカウンターに足を運んだが時すでに遅し。その便はもう飛んだ後だった。

その日は、パートナー企業の社長がわざわざ日本から訪ねてくる日で、どうしても帰らねばならなかった。私はここへきてようやくコトの大きさに気づき、焦った。周囲の人たちも騒ぎはじめた。

スタッフによると、どうやらあと数人乗れそうだという。こうなると、自己主張の強い人が勝つのが世の常。ファーストクラスを予約していた、いかにもやり手ビジネスマンという感じの男性と、セレブ風の婦人が早く乗せろと怒鳴る。その隣でもキャリアウーマン風が抗議している。そして案の定、声の大きい人から乗り込んでいった。それでも乗れたのは10人ほどで、まだ20人以上が残っていた。

次の便や、明日の便も、満席で誰1人乗れないと聞き、私は血の気が引いた。この敗戦処理は一体どうなるのか。ひとまず次のアナウンスを待つ他なく、不安を抱えたまま椅子に座った。

すぐ横では、ふくよかなアメリカ男性が「レンタカーで乗り合わせて楽しまない? 10時間あるからきっと楽しいよー」なんて笑いながら周りの人たちと会話しはじめ、疲労感たっぷりの場が少し和んだ。これもまたアメリカらしい。

その後、ゲートに責任者らしき人が来て、「チャーター機を用意する」とアナウンスした。2時間後には搭乗できると知り、私はやっと安堵した。そしてフライトチケットとクーポンチケットをもらった。金額をみると、私が購入したチケットの額を上回る、なかなかいい値段だ。これならみんな文句も出ないだろうと思われた。新たなフライトまで、クーポンチケットで食事をしたり買い物をしたりして、皆満足そうな顔をしてゲートを無事通過した。

いかにもアメリカらしい、問題解決(訴訟回避)の方法を見せてくれた出来事だった。日本の航空会社ではあり得ない合理的なやり方だ。

アメリカで仕事をしていくには、こうした合理的な思考を取り入れることが必要だ。しかし、合理的という考え方は、その国の文化によって価値観が異なる。

アメリカは問題が起きたとき、失敗をカバーする力が強い。それに対して、日本は問題が起こらないように、リスクを考えて物事を進める。おもてなしの文化がある日本では、合理的思考に冷たいイメージを持たれがちだが、私がアメリカで見た合理性は理にかなった、誰もが納得できるものだった。

そして、タイは失敗に関して寛容な国。いわゆるマイペンライ文化である。お互いの失敗を許し合えることが合理的というのがタイの価値観だと思う。ということは、企業がチャレンジしやすい国ということだ。

アメリカの合理性、日本のおもてなし、タイの寛容性。それぞれの良さを生かして、テクニアのさらなる発展に繋げていきたい。

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