泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第86回 『日本企業の良い点と難しい点』
タイでのものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。 本号はTNI卒業生メーティニーさんのJセミナーでの表記タイトルの講演(2019.6.12実施)をまとめたものです。「興味深いテーマと内容だった。日本の会社、日本人に対する感想は注意して対応しないといけないと感じている。卒業生の仕事への見解が聞けて面白かった」などの参加者からの反応でした。 Jセミナーは年2回—6月と11月、日系企業と日本人向けに実施しており、タイ人から日本企業と日本人に興味あるテーマを日本語で話してもらうのが特徴です。この11月は27日(水)に計画しており、右下の広告欄で紹介しています。皆様のご参加を期待しています。
編者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問
自己紹介 •2008年、TNI設立2年目に入学し、経営学部日本語経営学課程(BJ)で、日本語と経営学を学び、2012年に卒業。 •その後、横浜デザイン学院日本語学科で1年学び、伊勢丹タイランド株式会社に経営幹部の秘書として2013年から15年まで勤務。 •文部科学省留学生として2015-2018年、明治大学大学院商学研究科 博士前記課程で比較文化・経営などを学ぶ。 •2018年から現在まで、伊勢丹タイランド社で人事部 シニア・エグゼクティブとして勤務。
1.日系企業の良い点 安定性:タイ系や外資系の会社と比べると、日系企業のほうが解雇するケースが少ないと思う。 仕事の仕組化:仕事を仕組み化するため、担当者が不在の時でも仕事が進める(システム志向)。 ルール厳密:ルールを大事にし、厳しく守るので、社内の公序良俗がある(雰囲気と環境がそうなっていて、管理しやすい)。
2.日系企業の難しい点 余計な時間厳守:現在、多くの会社が勤務時間などをフレクシブルにした中、この仕組みを導入した日系企業は多くなく、すなわちもっと会社がフレクシブル制を導入し、ワークライフバランスを考えるべきで、例えばカフェテリアで、コーヒーを飲みながら働くとか、私生活を大事にすべき。 曖昧さ:高コンテクスト文化のため、暗黙知のルールや、曖昧な表現を使いがち。言葉・表現の曖昧さは確認して行動する必要がある。 本社統制:現地適応の度合いが高いと言えず、それによって、意思決定の遅れも発生しがち。それが、現地・現場を信頼しないことになり、東京中心になる。
3.タイ人と日本人の違い 国籍差別:日本人だけの非公開の集まり、日本人だけの情報共有、日本人だけの福利厚生、日本人だけの特別取り扱い➡タイの日系企業も、日系企業のリサーチ・サーベイも日本人だけになりがち。 謎の上下関係:上司部下、先輩後輩の上下関係が強い。特に先輩後輩関係に関して、タイ人の場合は1-2年だけ年齢が違っても全く上下関係なし。
4.質疑応答 •意思決定に関し、日系企業は、いまタイ人の社長が増えているが、御社はどうか? また、本社の統制は? ➡伊勢丹タイランドは、現地化が進まず、営業トップはほとんど日本人、社長も日本人だが、一段階として今年の4月から総務統括部長がタイ人になった。会社は営業を大事にしており、コミュニケーションと信頼関係の問題がないように、今までタイ人営業部トップが少ないと考えられる。 •タイ人社長が自分でルールを破るなかで、仕組化をどういう風に守ってもらえるか? 作った本人がルールを守らない。ルールの完璧さと寛容さをどうしたら良いか? ➡1)タイ人は面白いことが好き。そのため、教育する際、イラストや動画を使ったほうが文字だけのテキストより効果がある。2)ルールを守る本人に対するメリットの説明は必要。3)自分の上司の言うことだけ聞くスタッフが多いので、先にトップや、管理職に説明してからスタッフに説明する。4)100%ルールを守ってくれることを期待しないこと。全体的なイメージが崩れなかったら、多少ルールを守らない人がいても許してあげる。
2019年11月1日掲載