タカハシ社長の南国奮闘録

第107話 創業者精神で戦う

会社を営み始めた頃、とてつもない不安に襲われ、がむしゃらに経営の勉強をした。その時、ある本で「創業者精神で戦う気構えを持て」という言葉を目にした。この言葉を知り、後継者でも創業者と同じ心構えで会社を背負うことが大切なのだと思った。経営理念の「心技鍛錬」、社訓の「知恵・気配り・辛抱」に加えて、私自身の指針として「創業者精神で戦う気構えを持て」を掲げて社長室に飾り、いつも自分を奮い立たせていた。  当時は、納期遅れは当たり前、品質は修正とスクラップの山、営業はファクスの前で受注を待っているような状況だった。そこで3年かけて新しい人材を採用して管理力や営業力を強化、製造現場はコンサルタントとタッグを組んで特に5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)に力を入れ、稼働率を改善して収益性を高める管理方法を新たに取り入れた。その結果、会社の風土は瞬く間に活気を取り戻し、第二次創業を果たした。  経営も安定し、自信が慢心に変わった頃、私の指針はいつの間にか片隅に置き去りになっていた。現状のままでは会社はこれ以上伸びず、再度改革をしなければ社会の環境変化についていけないことに気づいた。ところが、当時の中心メンバーだった社員が古い考えで凝り固まって改革の妨げとなっていた。現有戦力を有効活用することで売上と安定を両立させようとして、組織が硬直化していた。  私は彼らが変わってくれることを望んだ。しかし、変わることができなかった。なぜなら私自身が変わろうとせず、相手にばかり変化を求めていたからだ。そこで再度、「創業者精神で戦う気構えを持て」という言葉を思い出し、創業者精神に灯をともして改革を行った。ここで私は、この言葉に対して昔とは違う考え方になっていることに気づいた。  そもそも創業者精神とは、創業時に世の中に必要なものを提供したいという使命感からなり、ハングリーにその使命に立ち向かう志の事を言う。創業者も後継者も関係なく、経営者には創業者精神が大切である。経営者がハングリーに戦うことが結果的に社員を守ることにつながる。  これが以前までの考え方だったが、今では少し違う。  ハングリー精神とは自分の欲に貪欲になることではなく、世の中をより良くしたいという欲だと感じている。世の中のための欲が創業者精神で稼働して、志や使命に命が費やされたとき舵は正しい方向に導かれ、見えない力が後押しをして皆の努力が報われていく。逆に、自分の持つ欲が我欲に走ると舵は狂い、一時的に栄えたように見えるが最終的には失う。我欲を捨て、志のために生きる経営が私の創業者精神だ。  テクニアは今、硬直化した組織を解体して、志のためにゼロから戦っている。そして私は社員のために、私自身の改革を始めたところだ。怯むことなく今の改革を推し進めて、真の経営者を目指して邁進していきたい。

2020年12月1日掲載

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