タカハシ社長の南国奮闘録

第109話 家族の絆

商品開発を始めてはや8ヵ月になる。コロナがもたらした自粛の時間に家族で始めたテレワーク関連の商品開発。よかったこともたくさんあるが、家族でやるからこそ配慮しなければならない難しさもあった。私は根っからの仕事好きで、趣味が仕事といってもよいほどだ。寝ても覚めても、四六時中仕事のことを考えていても苦にはならない。だからテレワーク状態になろうと気持ちの面では何ら変わりはなかった。しかし私以外の家族にとっては想定外だったようだ。自粛前までは家族そろって食事することはほとんどなかったため、娘たちは毎日の食卓にお父さんがいるという怪奇現象にかなり戸惑ったという。  家族で開発をするとなると、食事の時間も開発の話ばかりだ。しかもお酒が入れば拍車がかかる。一般企業なら家に帰れば社長から逃れられるが、娘たちはずっと私に付き合わなければならない。私の頭の中には製品のことしかなかった。  ある日、ついに娘たちの苦悩は頂点に達し、大喧嘩に発展した。そりゃそうだ。私はいつも娘たちのタイミングを考えず、朝の寝起きでも、夜寝る前のテレビ時間でも、思いつくままに一方的に仕事の話をしていた。振り返ってみれば自宅で、そして家族で仕事をしている娘たちにとっては、他所に比べより一層切り替えが必要だった。それなのに私は娘たちのプライベートな休息時間まで奪ってしまっていた。私はとても反省した。  そんな私だから、娘たちなりにストレスが溜まらないよう工夫していたようだ。切り替えられない環境なら、いっそのこと切り替えることをやめて、仕事中もプライベート時間も心の態勢をフレキシブルに切り替えていたという。娘の思いやりと、相手に合わせる姿勢に感動した。と、そこでふと気づいた。ひょっとしてテクニアの社員も同じような閉塞感にかられているのではないか……。  そこで自分のスタンスを変えることにした。相手の話に耳を傾け、自分の話したいことはとりあえず止めてみた。すると私の話したかったことを、相手から話すようになってきた。話をするタイミングを相手にゆだね、相手のプライベートを大切にする。そして私自身のプライベートも大切にした。するとなぜか新鮮な発想や新しい視点で物事を考えられるようになった。  その後、ECサイトの立ち上げや展示会への出展準備で作業が紛糾することもあったが、以前とは違い、娘のほうから意欲的な意見が出てきて、仕事の話にも前向きに賛同してくれるようになった。やはり互いに相手のことを考え、尊重しあえる関係になれたからだと思う。  まだまだ手探り状態ではあるが、ECサイトが完成し、2月初旬に行われる展示会の準備が形になってきた。今後はテクニアの加工技術をふんだんに使った商品開発を目指し、グループが一致団結していけるよう陣頭指揮をとっていきたい。  コロナが終息した頃には世界の常識が様変わりしているだろう。こうした製品が当たり前の時代が来ると予測している。そしてこのような出来事が起きなければ、私は変わらなかった。コロナが原因ではなく、今まで隠れていた問題がコロナ渦という状況で掘り起こされたことで、家族の絆が試され、成長させてもらった。まだ苦しいときは続くかもしれないが、今しばらくの間、家族とともに過ごすプライベートな時間を大切にしたいと思う。

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