タイ版 会計・税務・法務

【第84回】 監査報告書とその最近の動きについて

Q:タイに赴任してきて、はじめて経理関係をみることになったのですが、決算の時期を迎えて、監査人と報告書の作成について、いろいろと打ち合わせをしています。ただ、そもそも監査報告書には何が書かれているのでしょうか?

A:日本と違って、タイにおいて、法人は監査を受ける必要があるため、はじめての場合には、日本における税理士等が作成することが多い納税申告書に付随している財務諸表と同じようなものかと思われる場合もあるかもしれませんが、まず根本的な違いとして、財務諸表は会社もしくは会社が委託したものが作成する、ということに対して、監査報告書はこの会社が作成した財務諸表が適正かどうかについて“第三者=監査人”がチェックを行って、「確かにこの財務諸表は適正に作成されています」ということを表明する、言い換えればお墨付きを与えるため、に作成されるということがあります。

つまり、財務諸表だけでは、あくまで会社自身が作成したものなので虚偽の記載がされている可能性があるのを排除することは難しいですが、これに第三者がチェックをすることによって、正確性を高めようとするものです。やや余談になりますが、“第三者”がチェックをするというのが一つのポイントで、(これは監査人の独立性とも呼ばれています)、会社と関係がある監査人がチェックをした場合には、監査報告書自体の信頼性が疑われることになります。

したがって、監査人と会社の関係がないことが監査の大前提になりますし、また、監査人が財務諸表の作成にかかわるような行為をしてはいけないことになります(この意味で、監査会社と記帳代行会社は別の会社とするのが原則です)。

さて、このように第三者として財務諸表をチェックした結果を報告するのが、いわゆる“監査報告書”です。この監査報告書については、誰がみても内容がすぐに理解できるように形式が定められており、これについては会計委員会から指針が出されています。

タイの場合(これはほぼ各国共通ですが)は、以下のような内容を含むものとなっています;

  1. Opinion(監査意見)
  2. Basis for opinion (監査意見の表明の根拠)
  3. 3. Going concern (if any) (企業の継続性について;必要な場合のみ)
  4. 4.Key audit matters(監査における重要なポイント)
  5. 5.Other information(その他の情報)
  6. 6.Responsibilities for the financial statements(財務諸表作成の責任)
  7. 7.Auditors’ responsibilities for the audit of the financial statements(財務諸表監査における監査人の責任)
  8. 8.Date, address, and signature(発行日、住所、署名)。

このうち、4.の監査における重要なポイントは、2016年12月末以降に発行される監査報告書に記載を求めることが検討されているもので、監査の対象となった年度において、会社の経営陣とのコミュニケーションを行った上で、お互いが重要と考える事項を記載するものですが、この背後には監査人は監査において経営陣とよりコミュニケーションを密にとって監査を進める必要があるという要請があるものと考えられます。法定監査は年に一回ですので、その際に会社の財務状況について医者の定期検診を受けるような意味合いで、監査に臨まれてはいかがでしょうか。

 

今後取り上げてほしいというようなテーマがございましたら、参考にさせて頂きたく存じますので、下記のEmail宛にご連絡頂戴できますと幸いです。

 

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク ディレクター

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk

  • Facebook
  • twitter
  • line

関連記事