タイ版 会計・税務・法務

【第89回】 プロビデント・ファンドについて

Q:タイでは退職金基金があって、この加入について制度の変化があると聞きましたが、どのようなものでしょうか?

A:はい、ご存知のとおりタイには退職金基金運用制度があり、プロビデント・ファンドと呼ばれています。まずは、少しプロビデント・ファンドについて解説させていただきますと、これは退職金積立基金法(provident Fund Act,1987年)によって規定されている退職金基金です。これは企業と従業員が一定の資金を基金に預けて運用してもらい、従業員の退職時にそれまで支払った元本と運用利益を受け取るという基金の制度で、一種の確定拠出退職金基金とも言えます。

基金は、雇用者(会社)から独立した別個の法人格を持ち、設立時には運営委員会や運営規定を定めた定款を作成して、商務省に届出を行います。これは、会社の一部として退職資金積立をしている場合、会社の倒産等の危険から従業員積立金を守ることができないため、別の法人として安全性を高めているといえるでしょう。また、この基金の運用は商務省から認可を受けた独立したファンドマネージャーにより行われており、ファンドマネージャーが運営委員会に基金の運営状況を報告することになっています。
積立金や運用収益金は、退職の場合(自己都合退職も含めて全ての退職の場合)従業員に対して支給されます。積立額は給与の2~15%の間で任意に決めることが可能ですが、3~5%の間としている企業が多いと思います(なお、会社側の積立金は従業員の積立拠出額と同じか、それ以上であることが求められます)。
プロビデント・ファンドは、会社側にとって積立金部分が法人税上費用扱いとなるため、例えば退職金積立を自社の預金で行っている場合に比べて、税務上のメリットがでます。
(*会計上、退職給与引当金は費用として計上されますが、税法上も費用として計上するには、基金への拠出が必要となります)

また、こうしたファンドがあることは、従業員に対する福利厚生のアピールともなります。また、従業員にとっても退職時に自己積立金の他に、会社積立分とそれに伴う収益分を受け取ることができる(一定限度非課税)こと、および会社とは独立した基金として運用されているので安心であること、といったメリットがあります。退職金の社内制度が日本ほど発達していないタイにおいては、毎月の給与支給以外にこうした形で少しずつ外部に基金として積み立てることによって、定年後の資金の確保を行うという制度が導入されているともいえるでしょう。
ただ、このように社会および従業員にとっては良い制度であるのですが、基金の設立は任意加入であり、損金算入可能であるとはいえ、基金に対して一定程度の現金を拠出しなければならないことや、設立や運営の手続きが必要なことから、必ずしも全ての企業で導入されているわけではありませんでした(ただし、日系企業ではかなり導入が進んでいるという調査結果があります)。これに対して、今般政府で検討されているのは、従業員100人以上の会社や上場企業、投資優遇を受けている企業については、プロビデント・ファンド設立を義務化するというもので、当初は3%の拠出(ただし、月給1万バーツ以下の従業員は従業員積立部分の拠出義務はなし)が検討されています。
すでに、プロビデント・ファンドを導入されている場合には問題がないのですが、新しく進出された場合等においては、検討が必要な課題かと存じます。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク ディレクター

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk

 

2016年10月

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