タイ版 会計・税務・法務

【第92回】 会計基準の変更について(2)

Q:今年度から、タイの会計基準に少し変更があると聞きましたが、どのようなものでしょうか? (前回の続き)

A:前回は、非公開企業の種類を“Complex NPAEs”(複雑な非公開企業:以降「複雑非公開企業」)”と“Non-Complex NPAEs”(複雑ではない非公開企業;以降「非複雑非公開企業」)という二つのグループに分け、Complex NPAEsに対しては、原則として将来的にはTFRS for SMEsの全面適用を求めるのに対して、Non-Complex NPAEsに対しては、基準の幾つかについては将来的にも適用を行わなくてもよいという点と、これらの企業分類の基準について、解説させていただきましたが、今回は新規に導入される基準を中心に述べさせていただきたいと思います。
まず、TFRS for SMEsは全部で35章からなっています。複雑非公開企業では、将来的(最終適用は2022年)にはこのすべての章の適用が原則として求められていますが、非複雑非公開企業では、すべてを求められているわけではありません。現在のところ、適用が決まっているものが21章で、残りの14章については、ガイドラインもなく適用が予定されていないもの(4章)やガイドラインがタイ会計士協会から発表されているもの(10章)となっています。

このうち、ガイドラインがなく適用が予定されていない4章の内容を見てみますと「連結会計の適用(第9章)」「関連者への投資(第14章)」「ジョイントベンチャーへの投資(第15章)」「超インフレ状況下の会計(第31章)」となっています。第31章は少し特殊な状況下における会計ですので、そもそもあまり関係する場合が比較的少ないのですが、9章、14章、15章はすべて関係会社への投資等に関するもので、連結会計に関連するものです。逆の意味からは、非複雑非公開企業でない限りは(=複雑非公開企業の場合)、今後連結会計への対応をタイにおいてもとっていく必要が出てくるということになります。
ここで注意すべき点は、非複雑非公開企業の基準の一つとして“他の非複雑非公開企業への投資を行っている企業”というものがあり、上場企業の関係会社でない場合においても、他の企業への投資等を行っている場合は、連結会計の適用について準備をしていかなければならないということがあげられるかと思います。
監査の実務において、手間がかかるものの一つとして連結会計への対応があるのは、よく知られていることかと存じますが、これは他社より情報を集めた上で、自社の財務諸表と“連結”すべく様々なデータ(例;会社間の取引や出資、損益の状況等)を調整することになります。また、そのためには、連結対象会社の決算が確定(=監査報告書の作成が完了)していることが必要になります。

タイの実務では非公開企業においては監査報告書の完成が、期限ギリギリとなっていることも比較的多くみられます。もし投資をしている会社と被投資会社の決算期が同じ場合等では、投資をしている会社(複雑非公開企業となります)の決算連結作業のため、非投資会社側で決算作業を急いで行わなければならなくなる可能性もあります。したがって、自社がたとえ非複雑非公開企業であっても、もし複雑非公開企業からの投資を受けているような場合においては、この連結作業のため、なんらかの影響を受ける可能性がある点、注意が必要かと考えます。

ちなみに、複雑非公開企業における連結基準の適用は2019年からとなっており、まだ少し時間はありますが、連結の体制を整えることを考えると(例えば、決算期を変更する等の処置が必要になる場合もあるかもしれません)、来年度中には対応を検討する方が良いかとも思われます。

 

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk

 

2017年1月

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