タイ版 会計・税務・法務

【第105回】 税法改正と移転価格税制/BEPSについて(その2)

Q:昨年、移転価格税制にかかわるタイの税法の改正案が発表されたと聞きましたが、どのようなものでしょうか?

A:ちょうど本トピックを掲載している間、2018年1月3日にタイの内閣が移転価格税制改正に関連する草案を認可したとのことで、以下ではその概要について簡単にご説明させていただきます。なお、本草案は議会承認を経て正式に発布される形となります。そのまま施行された場合、2017年12月決算の会社から影響がでることになります。
まず、移転価格への対応として①関連会社取引の開示、②移転価格文書の整備が要求されており、対象となる企業は年間の売上高が3,000万バーツ(約一億円)を超える企業で、かつ対象となる期間は2017年1月—12月が最初の対象期間とされております。
対応が急がれる理由としては、上記の売上高基準をベースとすると殆どの日系進出企業が対象となること、また、2017年からが対象年度となっているため、2017年12月決算の会社は移転価格文書の整備を当該年度から行わなければならないことはもちろんですが、税務申告(2018年5月末が期限;年度末から150日以内)においても、すくなくとも①の関連会社取引の開示が必要となるため、そのための準備にとりかかる必要があります。ただ、関連会社取引の開示は、税務申告書に添付する付表が予定されているものの、まだ内容詳細は発表されておりません。従って、現時点では会計監査の際に準備するグループ間取引の内容をまずは最低限把握することから始め、正式法制化と歳入局から詳細が発表された時点で、すぐに対応して2018年5月以降の納税申告に間に合わせることになるかと思います。

さらに、2017年におけるグループ間取引の移転価格文書化(グループ間取引価格の正当性を証明する書類)が済んでいない場合には、これを用意する形になります。今後は対象年度について税務調査が入った際、特にVATや源泉税還付等 には、グループ間取引があった場合、移転価格文書の提示を求められる可能性が高く、かつその場合は歳入局より提示依頼を受けてから60日以内に企業側が提出しなければなりません。実務的に提示依頼を受けてから60日の間では文書作成の準備時間がなく(また、歳入局の考え方としてはグループ間取引発生の際に当該文書は準備されているものとなっています:いわゆる“同時文書化義務”です)、従って対象となる企業では2017年度分からそうした文書を用意することが必要になります。

これまで、タイでは移転価格への対応が他のアジア諸国(近隣では、インドネシア、マレーシア、ベトナム等が移転価格に関する文書化要求・規制の強化が近年に入って行われております)に比べるとややゆっくりしたものでしたが、本年に入って急速に進む可能性がありますので、次回以降も本トピックについて引き続き説明をさせていただきたいと思います。

 

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk 

 

2018年2月

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