タイ企業動向

第7回 勢い増すフォークリフト市場

モノ作りの生産の現場や搬送、保管、出庫などの業務に欠かせないのが、機動力があって小型ながらも力持ちの日本のフォークリフト。産業の集積が進むタイでも今では欠かせない存在となり、最近は排気ガスを放出しないバッテリータイプも広まって食品加工工場などで活躍している。ファーストカー減税策の余波などから足踏みの続くタイの製造業だが、フォークリフト市場は生産現場の効率化やトレーサビリティー(追跡可能性)の需要の高まりから底堅い需要で推移している。今回は、生産や輸送の現場を支える「縁の下の力持ち」を取り上げる。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

 

バンコクから北方に約50キロ。パトゥムターニー県のチャオプラヤー川にほど近い国道沿いに事務所兼倉庫はあった。フォークリフトのレンタル事業で急成長したPLIC コーポレーション(楠生恆社長)。昨年、満20年を迎えた。大手日系リース会社のタイ駐在員だった楠生社長が東南アジア、中でもタイ市場の将来性に着目。脱サラして事業を立ち上げた。1996年のことだった

伝統的に「レンタルは資金のない会社がすること。買い取るのが一般的」と受け止められてきたタイ市場。そこに切り込むことに「リスク」は当然にあった。そう指摘する仲間も少なくなかったが、「今がビジネスチャンス」と信じ足を踏み入れた。創業時に手元にあったのは日本から輸入した中古のフォークリフト8台だけ。自作したガリ版刷りのチラシ(広告)を地元の新聞に折り込んでもらい、営業を開始した。

ほどなく「話しを聞きたい」と連絡があった。思いもよらない大手メーカーからの問い合わせ。自社内での修理やメンテナンス不要のレンタルの仕組みに目が留まったのだという。実質的なアウトソーシングによる保守点検費用の削減は企業にとっても嬉しいコストダウン。人件費の抑制にもつながる。自信はあったが、「正直、ホッとした」と楠生社長。間もなく、照会が相次ぐようになった。

信頼の裏側に絶え間ないクオリティーがある。生産ラインの現場で、万が一にも故障や不具合は許されない。可能な限り故障率を低減する必要があった。一方で、顧客向けには随時の講習会を開催、安全と適正な操作ノウハウの習得に務めている。結果、今では1000台を超える同社のフォークリフトがレンタル稼働。顧客の新車導入時に占めるレンタルの割合も80%を越すようになった。

 

タイ国内のフォークリフト市場は現在約1万台と、東南アジアでは最大規模。タイ自動車市場の100分の1程度というのが関係者の大方の見方だ。とはいえ、長らく4000~5000台で推移してきたところ、2012年の大洪水特需(洪水は前年後半)で一気に用途が拡大した。2013年に8000台、2015年に9000台と試算され、とうとう大台を迎えるに至った。

現在も約70%が比較的安価なエンジン式と見られるが、日本や欧米で主流となりつつあるバッテリー式も浸透を始めている。排気ガスがあったのでは衛生上問題となる食品加工工場や閉所での運搬作業。産業の高付加価値化、異業種への拡大、環境意識の高まりが進むタイで、生産の現場を支える不可欠な存在としての認識が高まっている。フォークリフト各社では、エンジン式からバッテリー式へと進む乗り換え需要を見定めながら、軽量で壊れにくくエネルギー性能の高い新型車両の投入を目指している。

操縦するのに日本と同じような運転免許を必要としない点も、新たなビジネスチャンスを生み出している。前述のPLIC社と同様の技術者向け講習会は今ではすっかり珍しくなくなった。プラス・アルファが求められているのは、高い操縦技術と安全性の確保、それに不具合が発生した際の現場での応急メンテナンス術だ。各社では、しのぎを削りながらこうしたサービスを展開。日本市場で培われた技術の伝授に努めている。

フォークリフト市場を取り囲む周辺のマーケットも整い始めている。住友ゴム工業は一昨年、東部ラヨーン県のアマタシティー工業団地内に産業用向けタイヤ工場を建設した。13万㎡の敷地面積に3万㎡の建屋。トラクターなど農機具タイヤのほか、フォークリフト用タイヤの生産もここで行っている。生産規模は順調に拡大しており、今年は50万本を超える生産を見込む。消耗品のタイヤが現地で安価に調達可能となれば、維持コストの削減にもつながる。交換需要も拡大していく。

フォークリフト販社の負担を軽減しようと、リース会社の参入も始まった。三菱UFJリースはタイでリースによる金融販売を手掛ける子会社MUL(タイランド)を通じ、サービスの提供を開始した。レンタルへの理解が広がつつあるとはいえ、まだまだ二の足を踏むタイ・ローカル企業も少なくない。企業の信用も様々だ。こうした需要に応えようと始まったサービスだった。機動性を持たせるため与信判断は可能な限り短時間で行う。主に日系企業の利用を見込んでいる。

「タイには潜在的な需要がある」と関係者が口々に話すタイのフォークリフト市場。自動車など生産ラインの停滞が続く中でも、工場内機能の見直しやトレーサビリティーの強化などで活用する頻度が高まっている。「需要喚起の起爆剤になるかも」とは現代ブランドのフォークリフト事業を進めるTLSグループの幹部。日系企業が80%を占める中、外資入り乱れての戦国時代を迎えようともしている。(つづく)

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