タイ企業動向

第21回財閥の本丸タイの商業銀行その2

タイ経済を牽引するタイの銀行財閥。第2次世界大戦後に主に誕生し、コメ産業、組立工業、アグリカルチャ産業、石油化学産業など発展するタイの社会を支えてきた。その多くが中国大陸に起源を求める華僑で、彼らは故国を捨て〝タイ人〟として生きる道を選んだ。ところが1997年、初めての本格的な挫折となった通貨危機が全土を襲う。この過程でいくつもの金融財閥が破綻し、泡沫と消えたことは前回見た。それから20年余り。タイの銀行は見事に蘇り、新たな時代にこの国の血脈として存在し続けている。タイの商業銀行の第2回は、通貨危機から今日までの再編、変遷をテーマにお伝えする。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

 

取り付け騒ぎやヘッジファンドによるバーツの空売りなどが通貨の暴落を招いたとして、危機後、タイ政府は不良債権の判定ルールを厳格化するとともに預金保険制度の整備を急いだ。一方、商業銀行各行はタイ国内でのリスク完結を避けるようになり、一気に市場を海外に求め、銀行の〝国際化〟を進めていった。

こうした中、公的資金の注入を受けず民間商業銀行として生き残ることのできたのが、バンコク銀行、SCB(タイ商業)銀行、カシコン銀行(タイ農民銀行からCI=コーポレートアイデンティティーで改名)、アユタヤ銀行だった。これら4行は国内中心だった体制を改め、門戸を開いて海外に出資を求めた。その結果、バンコク銀行とカシコン銀行では2000年までに過半近い49%弱が外資によって買い支えられ、SCB銀行とアユタヤ銀行でも同様に30%以上を外資が占めることとなった。

 

外資による直接支配すなわち再編も相次いだ。華僑のトゥチンダー家が1945年に起こしたダイ・ダヌ銀行はシンガポール政府資本が買収の後、TMB銀行が買い取り、TMB自身も07年にオランダING社の大型出資を受けた。一方、別掲一覧には掲載していないが、コメ財閥のワンリー家が33年に設立したナコントン銀行をめぐっても99年、英スタンダード・チャータード銀行が株式の75%を取得、傘下に収めている。

バンコク銀行、カシコン銀行、アユタヤ銀行と並ぶ4大華僑金融財閥に数えられた名門テーチャパイブーン家創設のバンコク・メトロポリタン銀行(50年設立)も、寂しい末路を辿った銀行だった。同行は、王室財産管理局が母体となった41年設立のサイアム・シティ銀行に02年に吸収された後、カナダのノンバンク、タナチャートがさらに買収(10年)。現在はタナチャート銀行として営業を続けるが、当時の面影は何ら残っていない。

 

世界的なコングロマリット米GEグループから出資を受けたアユタヤ銀行の顛末も、この10年間でも最も衝撃を集めたニュースの一つとなった。同行は45年、陸軍プリーディー派の事実上の資金管理銀行として設立。その後、華僑のラタナラック家が経営権を握り、保険会社も傘下に入れた金融コングロマリットとしての道を歩んだ。早くからリテール(個人融資)に着目し、通貨危機でも比較的痛手は軽く済んだが、銀行のグローバル化の潮流に足並みを合わすことはできなかった。

このような時に米GEキャピタルが突如、買収に名乗りを挙げた。07年のことだ。GEは株式の3分の1を223億バーツ(当時の為替レートで6億2600万ドル)で買い取るとCEOを派遣。経営にも乗り出した。だが、その後は鳴かず飛ばずの状態が続き、民間商業4行の一角から滑り落ちると、前後してラタナラック家も完全に経営から身を引くところとなった。

こうした時に新たに買収の挙手をしたのが、日本の三菱東京UFJ銀行だった。三菱はTOB方式により株式の72%を総額1706億バーツ(当時)で買収。その後も買い増しして完全子会社とした。三菱はリテール重視に再び舵を切ると、当時、上位行と大きく水を開けられていた財務体質は瞬く間に好転し、今や国営クルンタイ銀行を追うところにまで業績を回復している。16年末期の純利益は前年比15%増の214億バーツ。上場商業銀行11行中最大の伸びを示した。不良債権率も通貨危機以降最低の2.21%を達成している。

 

一方で、総資産額で上位にあるバンコク銀行、SCB銀行、カシコン銀行の3行は通貨危機後、安定した経営を続けている。3行合わせた17年上期の総資産額は9兆バーツとなり、タイの国家予算の3倍強にも達する。純利益ともに下位行を圧倒しており、当面の盤石体制に変化は見られない。また、これら上位行はここ数年、積極的な海外進出を進めており、収益の柱を国際市場に分散させていく考えだ。

財閥の本丸タイの銀行財閥は97年の通貨危機から20年を経て、顔ぶれを変えて大きく様変わりした。国営クルンタイ銀行を含む商業上位4行を、外資系銀行や新生小規模行などが猛追する構図となっている。タイの銀行業はどこへ行くのか。連載の次回では、これら銀行財閥が抱える問題とその今をお伝えする。(つづく)

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