タカハシ社長の南国奮闘録

第59話 家族経営

中小企業には、親族が共に働いているということがよくある。タイのローカルには、社員がほとんど親族というケースも少なくない。零細企業が成長するとき、身内の力を借りて運営をする時期があり、その存在は時に大きくプラスに、時にマイナスに働く。

弊社の2代目は亡くなるとき、「弟と仲良く」と言って息を引きとったそうだ。私の父はその遺言を守り、3代目襲名の際、会社名を高橋鉄工所から高橋兄弟鉄工所へと改めた。そして文字通り、親族色の濃い会社となった。

その選択は正しく、結果につながった。兄弟が力を合わせることにより、ドルショック、オイルショック、バブル崩壊を乗り越えて会社は順調に成長した。先代の弟(専務)は技術知識が豊富で、エンジニアリングに加えて最先端の機械を使いこなし、さらに営業力も人一倍長けていた。その専務に加えて祖母・母親・母方の叔父・叔母3人・弟・姉・従兄弟5人を雇用、協力会社は3社におよんだ。私の知る限り総勢25人、多いときで同時期に10人以上は社内にいた。先代の計り知れない器の大きさと野心、そして愛情を感じた。

私が4代目となり、有能な叔父はテクニアを引退した。還暦を迎え、のれん分けという形で持ち前の力を生かし、家族ぐるみで同業種の仕事を始めた。こうして記事を書きながら、感謝の気持ちでいっぱいになった。たくさんの身内に支えられて今があることを忘れてはならない。

能力が高く、人格が備わっていれば、時にとてつもなく大きなエネルギーとなり、先代のように会社を成長させることが出来るのだろう。しかし逆に、身内ゆえの難しさが負のエネルギーを生むこともある。その要因のほとんどが「甘え」だ。親族の難しさは嫉妬やねたみなど、内面的な要素が大きい。私も目の当たりにしてきたが、甘えを払拭できないのであれば、のれん分けなどの方法で自立し合い、どちらも成長していくことが望ましい。

タイで成功しているある日本人社長は、タイ人スタッフと家族同様に日常を過ごされている。どちらかというと、タイの習慣に馴染んでいるようだ。親族や国籍を問わず、社員全員に家族として愛情を注いでいる。ここに大きなヒントがあると思った。

要するに、親族だからというのではなく、誰であろうと互いに尊重し合い、信頼し合い、会社を支え合える家族になること。そうなれれば会社は自ずと発展するということだ。

その信頼関係は、苦楽を共にした経験や仕事に対する情熱で決まる。タイ人スタッフがその会社を愛しているかどうかがとても大切だ。

そうなっていくためには、聴く耳を持ち、相手に寄り添い、生活を支え合う気持ちや接し方が必要なのだと思う。それが私の思う家族経営である。今いてくれている社員たちは、私の大切な家族なのだ。

高橋 弘茂
名古屋市中川区の精密加工部品メーカー『TEKNIA』の4代目。1969年愛知県生まれ。1989年に同社の前身『高橋兄弟鉄工所』に見習い入社。現場経験を積んだ後、『Yamazaki machinery UK ltd』などを経て2001年8月『タカハシテクニア』代表取締役就任。現在はVITPROJECT (THAILAND) アドバイザーを勤めるほか、マネジ個性学コンサルタント(セミナー開催)なども手掛ける。
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