タイ版 会計・税務・法務
第119回 BOIの投資優遇改定(ITCとIBC)
Q:先般発表されたBOIの投資優遇改定において、以前のITC(International Trading Centre)がなくなりIHQ(International Head Quarter)とあわせてIBC(International Business Centre)という形に変わったと聞いたのですが、これはどのようなものでしょうか?
A:昨年12月の布告において、BOIはITCとIHQの優遇申請受付を停止し、新たにこれを統合したような形で、IBCという制度を導入したことについては、すでに色々な解説や記事が出ておりますので、ある程度ご存知かとは思います。
これはもともと、IHQとITCがOECD(経済協力開発機構)から国際間における租税回避行為を助長しかねないものとして改善を要請されており(以前の本連載‟BEPS”の項をご参照ください)、歳入局が昨年10月にITCとIHQの税務恩典申請受付を中止したことに伴って、BOIにおいても歩調を合わせて改定を行ったものとのことです。ただ、今回の改定におけるITCの廃止は、やや疑問の残るところです。
ITCは、以前あったIPO(International Procurement Office)を源流としており、タイ国内の製造業の発展において不可欠な部品調達ネットワークの拡大のために創設された優遇処置であって、どちらかというとタイのサービス業外資規制に対する例外措置的な性格を持つものであったかと考えます。 これは、2015年にIPOからITCに制度が変更されて、特に部品以外の完成品の売買が可能になったことや、国内調達義務がなくなったこと等から、販売現法設立がより容易になり、より多くの産業分野の日系企業がITCを利用してタイの拠点設立を行ってきました。
今回、ITCがIBCになったことにともない、①対象業務従事者が10名と、ITCの頃に比べると大きな雇用義務が発生すること、②国際貿易事業以外に事業範囲内事業を1つ以上行う必要があること、③輸出向け製品の原材料の輸入関税の免税恩典 がなくなったこと、等の影響があり、特に①の雇用義務規定は、これまで“まずは小規模な販売現法からタイに進出を”と考えていた日系企業には大きな影響が出る可能性があると考えます。
この雇用義務規定は租税回避行為としての統括実態のない会社設立を防ぐために設けられたのではないかと推測されますが、上述のようにITCは税務恩典狙いというより、むしろ外資規制対策として利用されてきた経緯から考えると、今後タイに販売現法で進出しようとする企業にとってはハードルが一気に高くなり、資本金を大きくするか、もしくは内資企業との合弁を考えるかという選択肢を選ばざるを得ない場合も出てくるかと思います。
ただ、資本金を大きくするというのは、そもそも“まずは小規模な販売現法からタイに進出を”という考えに反しますし、内資企業との合弁については運営の自主性や配当等の問題に対処する必要があります。 BOIは、サービス関連業務については原則非税務恩典の付与という役割を担っている中で、歳入局の対応に引っ張られる形で卸売関連投資の厳格化に至ったのは、やや残念な形になったと考えます。なお、商務省における外資規制の緩和(グループに対するサービス業務の緩和)も、昨年から検討が行われていますので、本来であれば卸売業務に関する外資規制緩和が望まれるところです。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
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2019年4月号掲載