タイ版 会計・税務・法務
第137回 今回のテーマは、有形固定資産に関する 会計上の取り扱いについてです。
Q:最近、土地・建物・機械・および投資用不動産等の有形固定資産に関する会計の取り扱いについて、少し変化があったと聞きましたが、どのようなものでしょうか?
A:会計に関するトピックは、それなりに専門用語が多くなるので、少し説明が難しくなるのですが、今回タイ会計専門家協会(TFAC)から発表された変更について、以下、説明させていただきます。 まず、タイにおけるほとんどの日系進出企業においては、会計基準として「TFRS for NPAEs 」(いわゆる「非上場会社向け会計基準」以下「非上場基準」)というものが適用されています。この中で、有形固定資産(土地、建物、機械等)の価値の取り扱いについて、この非上場基準ではこれまでは「原価モデル」というものしか認められていませんでした。 一方、今年に入ってからのCOVID-19の影響で不動産を中心に価格の変動(下落)が大きくみられることから、非上場基準においても、いわゆる「公正価値モデル(もしくは再評価モデル)」という別の価値の測定方法の採用についても認められることになると、TFACは発表しました。 ここで、原価モデルと公正価値モデルについて、簡単に説明させていただきます。 まず、原価モデルとはよく馴染んでいる方法で、「取得価格―減価償却累計額」で固定資産の価値が表されます。 ただし、市場価値が、この固定資産の帳簿上の価値より大きく下回っており、かつ、その状態が長く続くことが予想される場合には、「減損」という一種の低価法の再評価によって、価値を修正することが許されています。 一方、公正価値モデル(もしくは再評価モデル)においては、市場価格をもって資産の価値とすることを原則とするもので、柔軟かつ迅速に資産の価格変動を財務諸表に反映できるような方式です(公正価値モデルと再評価モデルは、適用方法等が少し異なりますが、説明はここでは割愛します)。 企業においては、これまでの原価モデルと公正価値モデルのどちらかを採用することが可能となるとされています。 一般的に原価モデルは、本業が企業の保有する固定資産の市場価格と関連性が低い業界―例えば卸売業や製造業―において、より適切に企業の状態を表すことができると考えられているのに対して、公正価値モデルは固定資産の市場価格と本業の関連性が高い業界―例えば不動産賃貸業や不動産開発事業等―においては、市況の状況に応じた企業の状況を適切に表すことができると考えられております。 今回の改定は、COVID-19による不動産市況の悪化の影響を受けていると考えられる、不動産関連事業者において、より柔軟な対応を可能とすべく導入されたものと言われております。確かに、市況が悪化している今導入すれば、一時的に財務内容は悪化しますが、一方で市況回復時にはそのメリットをそのまま反映できること、また、かつての日本の不動産のように不動産を高値のまま保持することによってかえって処分が遅れたりすることを防ぐ効果があるかと思われます。 公正価値モデルの導入については、やや複雑な処理等も必要となりますので、導入の際には専門家にご相談ください。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
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2020年10月1日掲載