タイ企業動向
第65回 「コロナ禍でも進むタイのプラスチックごみ削減の動き」
2020年1月から始まったタイの小売大手75社によるプラスチック製レジ袋の一斉廃止。事前告知が不十分ともされ導入当初は混乱もあったが、あれから1年3カ月、人々の暮らしやライフスタイルにもすっかり定着。今では買い物袋を下げ、コンビニエンスストアを訪れる消費者も何ら珍しくなくなった。また、新型コロナウイルスの感染拡大時には、持ち帰りやデリバリー需要の拡大から早くも頓挫かと懸念もされたが、それでも大手小売店でのレジ袋廃止は継続され、プラスチック製ごみ削減に向けたタイ国民の本気度を見せた。タイ政府も2019年4月に閣議決定したプラ製ごみ削減のためのロードマップ(工程表)をコロナ禍でも維持し、22年にはプラ製レジ袋の全廃、27年にはプラ製ごみの完全リサイクル化を実現させる意向だ。これに合わせて企業各社の取り組みも本格化している。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)
昨年末に発生した新型コロナ第2波の終息を受け政府は2月下旬に閣議を開き、プラスチック製ごみ削減に向けた当面(第1期)の行動計画を決定。19年に策定のロードマップに基づくもので、22年までには工程表どおりに4種類のプラスチック製品の生産をまずは全面禁止。その他7種類の同製品についても同時期までに、50%以上の削減またはリサイクル化を達成するとしている。 生産が全面的に禁止されるのは、①厚さが36ミクロン未満のプラ製レジ袋、②発砲スチロール製食品容器(水産業向けや工業向け緩衝材は除外)、③厚さ100ミクロン未満のプラ製飲料カップ、④プラ製ストローの4点。いずれも医療現場や高齢者、小児向けなどに必要なものは例外としている。これにより、年間500億枚が使用されてきたとみられるプラ製レジ袋のうち半数以上は削減が可能とみる。発砲スチロールやプラ製の使い捨て容器の禁止は21年から本格化させる。 一方、50%以上の削減またはリサイクル化の促進が義務付けられるのは、①耐久性の高いプラ製レジ袋、②単層プラ製フィルム容器、③ペットボトルおよびキャップ、④プラ製の飲料カップおよび容器・トレー、スプーン、フォークの各容食器など。厚さがあるなど耐久性が高いプラ製容食器は、家庭で洗って再利用されるケースも多いなどと規制には異論もあったが、ごみになる要素が看過できないとしてリサイクル化を促進させる観点からも加えられることになった。
2021年5月5日掲載
こうした第1期の行動計画で定めたプラ製ごみの生産規制によって、政府は年間のプラ製ごみ約80万トンに加え、廃棄物の処理に要していた管理費約40億バーツが削減できると試算する。同時に民間企業によるエコデザイン製品の開発や販売が進み、生分解性プラスチック袋や紙でできた容食器・ストローなどへの切り替えも広がっていくと読んでいる。 また、政府は工程表の進行も見ながら第2期(23~30年)の行動計画も早期にまとめていきたい意向だ。その要となるのがプラ製ごみの全量リサイクル化だ。タイ国内のプラ製ごみの排出量は年間約200万トン。このうちリサイクルに向けられているのは50万トンにも満たない。これを100%近くに一気に高めることができれば、タイのプラ製ごみ削減計画は結実すると読む。このため政府は、地方自治体に適用するごみの分別規定を定めた新法の制定や、リサイクルに対するリノベーション支援・ビジネス支援を進めていくことにしている。 国民の理解も広がっている。大手小売によるプラ製レジ袋の廃止を決めた直後にタイ国家開発管理研究所(NIDA)が実施した意向調査では、8割を超える消費者が賛意を示し、買い物袋を持参して買い物に向かう姿が浮き彫りとなった。政府は、その後も定期的に消費者動向の把握には努めており、首相府によれば概ね同程度の賛同が得られているという。こうしたことからコロナ禍にあっても、当初定めた工程表の維持は可能と判断したもようだ。(つづく)