タイ版 会計・税務・法務
【第70回】 個人所得税の申告について
Q:タイで昨年から勤務を開始しています。日本企業からの出向であることもあり、日本とタイ両方で給与を受け取っているのですが、日本で貰っている給与についても、タイでの個人所得税の申告は必要になるのでしょうか。
A:原則として必要になります。タイ国内での雇用や職務上の責任に起因する所得はタイにおける国内源泉所得(※1)に該当するとされ、所得の受取地がどこであれ、タイにおける個人所得税の課税対象となります。この課税対象所得を有する場合、当該課税年度(1月1日~12月31日)の翌年3月31日までに確定申告を行う必要があります。
Q:『そもそもタイに180日滞在していない場合は、タイでの個人所得税申告は不要』という話を聞いたことがあるのですが、これは事実でしょうか。
A:必ずしも事実とは限りません。こちらは恐らくタイでの租税が免除になる条件を定めた、日タイ租税条約上の以下の文言(※2)に関する話かと思われます。
- 報酬又は所得の受領者が当該カレンダー年(筆者注:1月1日~12月31日を指す)を通じて合計180日を超えない期間当該他方の締結国内に滞在すること。
- 報酬又は所得が当該一方の居住者又はこれに代わる者から支払われるものであること。
- 報酬又は所得が当該他方の締結国において租税を課される企業によって負担されるものでないこと。
この点、例えば『日本企業から出張ベースでタイにて勤務している方(※3)で、その在タイ日数が単一カレンダー年内で180日を超えず(上記1に対応)、その方への給料が日本企業からのみ支払われ(上記2に対応)、タイ企業からは一切支払いがない(上記3対応)』といったケースであれば、タイでの納税は不要になります。
一方で、当該条項は最低一方の国における『居住者』である個人にのみ該当するとされており、『タイに1年以上の勤務予定で転勤してきた方』や『タイの現地企業に就業しており、特に帰国期日も決まっていない方』の場合、タイにおける滞在日数が180日を超えないとすると日本・タイいずれの国でも『居住者』に該当しない(※4)ため、この条件の検討対象になることができず、結果として原則通りタイでの納税が必要になることになります。
Q:タイにおける個人所得税率は何%でしょうか。
A:タイも日本同様累進課税方式を採用しており、所得が高い程税率が高くなります。
年間所得 | 税率 | |||
0 | – | 150,000 | 0% | |
150,001 | – | 300,000 | 5% | |
300,001 | – | 500,000 | 10% | |
500,001 | – | 750,000 | 15% | |
750,001 | – | 1,000,000 | 20% | |
1,000,001 | – | 2,000,000 | 25% | |
2,000,001 | – | 4,000,000 | 30% | |
4,000,001 | – | 35% |
Q:仮に個人所得税の申告漏れがあった場合は、どうなるのでしょうか。
A:税務当局は2年前まで遡及しての税務調査権限を有します。また、脱税の意図に関する確固たる証拠がある場合などは5年前まで遡及しての税務調査権限があります(※5)。このため、内部告発等をトリガーとして税務当局が調査に入り、加算税及び延滞税(※6)を徴収されるリスクが生じます。個人所得税は個人に関する課税ですので、申告の不備があった場合は当該個人が直接は責任を負うことになってしまいますので、会社としては従業員保護の意味でも、慎重な対応が求められます。
(※1)歳入法典第40条 (1)及び(2)
(※2)日タイ租税条約第14条 (1)
(※3)この場合は、一般的に日本側の『居住者』と推定されます(参考:日本国 所得税法施行令第14条、第15条、所得税基本通達2-1、3-3)
(※4)歳入法典第41条 (3)。日本側判定については(※3)条文参考
(※5)歳入法典第19条
(※6)歳入法典第20条~第27条の2
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
2015年3月
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