タイ版 会計・税務・法務
【第94回】 取締役会、株主総会における電子機器の利用について
Q:弊社はタイに子会社があり、本社の役員が子会社の役員を兼ねているため、取締役会等の出席のため、タイに出張する必要があったのですが、今般電子機器等の利用による電話会議ベースでの取締役会等の開催が可能になったと聞きました。今後は出張をしなくてすむのでしょうか?
A:結論から申し上げますと、残念ながらタイ国内への出張は引き続き必要となります。タイの民商法典では、株主総会の招集(事前の新聞への公告や通知状の発行) や、株主総会での決議方法等において、比較的煩雑な規定が残っており、その一つとしてこれまで会社の会議(特に取締役会)における電子機器を利用した会議の開催が認められておらず、法律上は会議を開催された場に実際に出席しなければならないとされていました。したがって、ご質問のように、出席する取締役数が定足数を満たさない場合等、出張をして参加しなければならないケース等も発生したかと思われます。
日本においては、会社法施行規則101条3項1号において、“取締役会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。(1)取締役会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない取締役〜(略)〜が取締役会に出席をした場合における当該出席の方法を含む)という形で、開催場所にいないにもかかわらず出席した取締役を許容しており、電子機器等の利用による出席も認められていると解釈されています。また1996年には法務省からテレビ会議等を認める見解が文書で出されています。
このような流れに対して、タイでは2014年に国家平和秩序維持評議会(NCPO)が会議における電子機器の利用についての布告を出していました。昨年9月にも商務省より電子機器の利用による会社の会議(取締役会、株主総会)等を認める通達を正式に発行しました。ただし、この電子機器の利用においても、以下のような制限があります。
1)会議の開催場所において、定足数の1/3を満たすものが、実際に参加していること。
2)会議の開催時点において、会議の参加者全員がタイ国内に滞在していること。
3)使用する電子機器および記録については、電子会議におけるセキュリティー基準に準拠していること。
上記のうち、1)はさほど問題ではないかと思われますが、2)の規定によりご質問のようなケース(日本にいながら、タイの取締役会に電話会議により出席すること)は認められず、少なくともタイ国内にはいることが必要となってきます。ただし、タイ国内に滞在していれば、必ずしも会議開催場所にいる必要がないため、複数の子会社があるようなケースで、他の子会社の取締役を兼ねているような場合等においては、電子機器による参加を検討できるかと考えます。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2017年3月
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