タカハシ社長の南国奮闘録
第73話 成幸者
私はかつて売上や利益、顧客獲得、稼働率改善に力を入れて会社を経営していた。福利厚生にも力を入れ、インセンティブを与え、やりたい仕事のために新鋭機を揃え、チャレンジできる環境を整えてきた。経営戦略に経営計画を落とし込み、事業部の目標を掲げていた。
しかし、08年に起きたリーマンショックで、それまで積み上げてきたものが崩壊した。右肩上がりで伸びていた売上が一気にしぼみ、総崩れになった。しばらくの間、身動きがとれなかった。社員のみんなに辛い思いをさせてしまったことを、今も昨日のことのように覚えている。
あれから10年。残ってくれた社員、付いてきてくれた社員、仕事をくれるお客様、 資金準備をしてくれる銀行に、心の底から感謝している。
今ではリーマンショックにも感謝できるようになった。あの出来事の直後から、本当に色んなことがあった。当時、大好きだった酒もほろ苦く、食事も喉を通らなかった。けれどもリーマンショックのおかげで、いろいろなことに気付き、学ばせてもらった。
一番の収穫は幸せという価値観だ。「成幸者」という言葉を聞いたことがあるだろうか。私は「幸せな成功者」という意味に捉えている。
人材コンサルタントの上村光弼氏が書いた『成功者と成幸者』(PHP研究所)という本の中に、以下のような言葉がある。
「成功者は結果だけが大切で、成幸者はプロセスも大切にする」
「成功者は得ることに興味があり、成幸者は与えることに興味がある」
「成功者は奪い合い、成幸者は分かち合う」
「成功者は人生を戦いと考え、成幸者は人生を学びだと考える」
「成功者はお金がたくさんあると幸せで、成幸者は友達がたくさんいると幸せ」
経営において必要なことは、利益を出すこと。しかし、それはマストであってミッションではない。大切なのは、事業が、会社が、何のために存在していて、どこの誰の役に立っているか、「誰を幸せにしているか」ということである。
事業が危機に瀕したとき、このことが体に染みついているのと全くわかっていないのとでは先の結果は全く違ってくる。
会社が大きいか小さいか、先端かローテクか、資金が潤沢にあるか無いかではなく、良い方向に向かって会社が成長しているかどうかが大切だ。
日本であれタイであれ、どこの国であっても、社員が幸せだと思える会社づくりをすることが経営者の一番の使命ではなかろうか。それは甘やかすということではなく、辛い時も苦しい時も、見守ったり励ましあったり、苦楽を共にして、自然に幸せが生まれる会社にすることだと思う。
今はできていなくても、長い年月をかけて、少しずつ会社を、社員を、自分を育てていく経営をしていきたい。それが私の目指す経営者像だ。社長がすべきことは、関わるすべての人たちの幸せを大切にすることだと思う。