電源の多様化を進めるタイの戦略

2019年のエネルギー使用傾向

エネルギー省によると、2019年の一次エネルギー消費は石油、天然ガス、代替エネルギーを合わせて前年比0.7%増で、国家経済社会開発委員会のGDP成長率予想の2.6%に即した数値だった。  ドバイ原油の価格は1バレル62ドル前後で推移し、2019年の最終エネルギー消費は輸送部門の石油、家庭・事業所の電力増加により、前年比0.1%増となった。一方、石炭と亜炭の使用は減少した。  使用燃料の内訳は、石油製品が1.6%増、ガソリン、ディーゼル合わせて4%増。これは石油の小売価格が低水準にあったこと、連休が多かったことによる。一方、ジェット燃料はあまり増えなかった。これは上半期の観光客が増えなかったことによる。  LPG(液化石油ガス)の使用は各部門ともに減少した。特に家庭での減少が目立ち、電気オーブン、電子レンジの普及により、LPGから電力への切替えが進んだことが要因と見られる。電子レンジの売上は14%増となり、家庭での電力使用が増加傾向にある。また輸送部門でもLPGから燃料油への切替えが進んだ。これも燃料油価格が低水準だったことによる。  2019年の最終エネルギー消費が0.1%増となったのは、輸送部門の石油、家庭・事業所の電力の増加に加えて、工業分野の石炭、亜炭の使用が減少したことによる。特に輸送部門のNGV(天然ガス自動車)が11%減と目立った。これは車のユーザーがNGVから燃料油に切り替えたことが大きい。  2019年のディーゼル油の消費と価格については、まず1日当たり6,750万リットルが消費され、前年比4.3%増となった。またバイオディーゼル燃料「B20」の奨励政策により、B20の消費は1日当たり800万リットルに増えた。昨年12月20日からはB10の奨励政策により、B10を扱うスタンドが411ヵ所に増え、B20を扱うスタンドは2,743ヵ所を数える。  さらに、2019年のB100(100%のバイオディーゼル)の使用は1日当たり490万リットルに至った。これらの消費量はいずれも予測を上回った。  ガソリン、ガソホール(エタノール混合燃料)については、1日当たり3,320万リットルが消費され、前年比3.9%増となった。これは燃料油価格の低水準が続いてLPGからの切り替えが進んだことによる。現在E95(エタノール95%混合ガソリン)が最も消費され、43%を占める。1日当たり1,390万リットルの消費で7%増。E91がこれに続く。E10は1日当たり960万リットルの消費で3.9%減となった。  2019年の電力消費は3.8%増となった。これは例年より早く暑季に入ったことによる。気温も前年より1-2℃高く、家庭・事業部門のエアコンの販売数とエアコン使用が増えた。電力消費の合計は1,949億4,900万ユニットで、ピークは5月3日14時27分に3万7,312メガワットを記録(前年比8.7%増)。  首都圏電力公社、地方電力公社、タイ産電公社の3組織の電力需要が前年比7.7%増の3万2,273メガワットとなり、工業部門を除く全ての部門で使用量が増加した。  工業部門の電力需要の伸びが弱かったのは、経済の鈍化による。特に食品、鉄鋼、金属、エレクトロニクスに顕著に表れた。米中貿易戦争の影響で鉄鋼、エレクトロニクスの生産が減退する一方、家庭・事業部門の電力消費が増えて全体の52%を占めた。  2019年のエネルギー輸入額は14%減の1兆530億バーツ、エネルギー輸出額は32%減の1,940億バーツとなった。輸入額の減少は原油価格の低下による。  原油と石油製品はタイの輸入総額の61%を占める。タイのエネルギー源の67%は輸入頼みである。

2020年のエネルギー使用予測

エネルギー省は、経済動向、外為レート、原油価格、エネルギー関連政策に基づき2020年のエネルギー使用予測を発表した。  国家経済社会開発委員会は、2020年の経済成長率を2.7-3.7%と予測している。それには以下3つの要因がある。(1)内需拡大により世帯消費、官民投資ともに増加。(2)世界経済の緩やかな回復により輸出が徐々に改善。(3)政府の経済政策の進行と観光部門の向上。  外為レートは昨年並みで1ドル30.5-31.5バーツで推移し、原油価格は米国とイランの対立の度合いによる。国家経済社会開発委員会と他の多くの機関の予想に大きな違いはない。石油消費量の多い米国、中国、日本の経済が鈍化傾向にあることも大きく影響するとみられる。  エネルギー使用は石油、石炭・亜炭、代替エネルギー、輸入電力、天然ガスが前年比1.8%増、電力消費は2.6%増と予測する。これらは緩慢ながらも国内経済が改善されることによる。東部経済回廊(EEC)への投資促進、官民連携(PPP)を軸とする政府の経済政策によって輸出も上向きになるとみられる。

化石燃料からの脱却

現代は技術の進歩が目覚ましく、あらゆる事業活動がますます容易になっている。しかも新技術の導入によって、何十年もかかって発展した従来の技術体系が、一瞬にして時代遅れとなる。工業、交通、医療など、世界の人々の生活様式の発展に従って、エネルギー使用の形態も変化が進む。ここに革新的な技術が次々と参入してくれば、エネルギーのディスラプション(創造的破壊)が必然的に起きてくるだろう。  この流れは世界中で同時進行しており、エネルギー使用の形態が古い形から新たな形に移行しつつある。過去数十年間、発電燃料は石油、石炭、天然ガスなど化石燃料に頼ってきた。しかし最近のわずかの間に代替エネルギーの使用が増え、そのテクノロジーも飛躍的に進歩している。  ソーラーパネルは高価な機材だったが、技術の進歩で低価格化が進んだ。将来的にはユニット当たりでは発電所の発電コストと同等レベルまで下がるだろう。化石燃料に対する強力なライバルとして太陽光が浮上している。  代替エネルギーは環境対策としても魅力があり、社会に有用なエネルギー源として世界的に評価が高い。インド、中東諸国をはじめ循環型エネルギーに力を入れる国も増えており、ソーラー電力の価格を通常電力並み、またはそれ以下に設定して普及を図っている。   代替エネルギーの主役は太陽光、風力であり、現在は欧米、オーストラリアなどで普及が進んでいる。近い将来、電力貯蔵の技術が大きく発展し、化石燃料による電力に対して、蓄電される電力の存在が大きくなってくるだろう。  タイのエネルギー政策も、時代とともに世界の潮流に沿って発展している。政府のサポートも手厚く、当面のニーズに対応している。民間の関心も高く、代替エネルギーの発展を下支えしている。  タイのエネルギー事情はアセアンでは群を抜いている。代替エネルギーの使用、エネルギーの使用効率、EV技術を焦点として、国際エネルギー機関(IEA)は東南アジアでトップと評価している。  タイは太陽光、風力、その他のグリーンエネルギー施設の展開もアセアンで最も進んでおり、世界中から評価される日もそう遠くないだろう。

エネルギー新時代を迎えて

エネルギー省は個々の国民が恩恵を受ける全体向けのエネルギー政策を推進し、草の根レベルでの底上げにも力を入れる。具体的な短期目標は次の通り。

①国民の生活費の支援に資するエネルギー政策、燃料油および電力エネルギーの価格構造の再編。

②3年後の1,000メガワットを超える発電所の展開に、700-800億バーツを投じる(昨年12月に国家エネルギー政策委員会に提案済み)。バイオマス使用を増進してPM2.5問題に対応。

③生活水準の向上をめざし、電力アクセス権が認められた地域には全国的に電力供給を充実させる。現在、電気が来ていない集落は500ヵ所、40県に散在する。また送電施設の不備で停電の多い地区も少なくない。多くは県境の森林に接する地域にある。3-5年計画を作成して当該地区への対応を進める。エネルギー保護奨励基金、エネルギー保護・開発基金が具体策実行の財務の要となる。

④コミュニティーレベルのエネルギー施設の充実を進める。カンチャナブリ県をモデル地区にして、太陽光、バイオマス、ゴミ発電などのモデル施設、制御された化石燃料発電のモデル施設を展開する。財源はエネルギー保護基金がベースとなり、民間が参加する。民間はCSR活動が主体となる。すでに基金理事会には100件を超えるプロジェクトが提案されている。今年中に承認件数が増え、2月には1億バーツを超える投資が承認される。

⑤B10の全国的な使用を推進し、標準的な農産ディーゼル油として普及させる。大型トラック向けのB12の使用も推進し、パーム油の消費を進める。世界的な原油価格の不安定のなか、国内の燃料価格をある程度安定させる。ガソリン、ガソホール方面でもE20のバイオ燃料の推進が今年から始まる。

⑥EV(電気自動車)奨励策が本格化する。EV車両および充電設備を含む全体系の開発委員会の設置に向けて関係各部署が動き出す。将来に向けての歩調が整うことになる。電力価格についても、EV支援の目的で改定が進む。余剰電力を引き受ける備蓄電力または予備電力も30%まで増やす計画となる。BTS、NRTなどの電車も、路線拡張とともに運賃引下げが日程にのぼってくる。一般電力からのサポートによるEV向け電力の充実、また国際間の電力売買がアセアンレベルで進む。

各国のエネルギー政策の方針、エネルギー関連機関の実務の方向は一致していない。しかし、国民のために真に効率的な行政が生きている国では、新たなエネルギー事業が発展しやすい環境となり、経済システムもより堅固になり、国民の暮らしは自然と楽になる。  タイは太陽光、風力、その他のグリーンエネルギーを、地方に重点をおいて開発する展望を持っている。タイはアセアン最大のバイオマスの潜在力も蓄えている。これらの循環型エネルギーが順調に開発、実用されれば国際的な評価が高まり、世界中の関心がタイに向くだろう。

20年2月1日掲載

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