5カ年投資促進戦略から読み解く 2023年のタイ経済展望

タイ投資委員会(BOI)が新たな優遇策発表

タイ投資委員会(BOI)は2022年11月4日、同年10月に発表した5カ年投資促進戦略(2023~27年)に基づく新たな投資優遇策を発表した。長期投資家の拡大を目指し、タイでの研究・開発(R&D)を対象とした包括的な移転プログラム、水素自動車の製造、電気自動車(EV)バッテリー交換施設の設置等の持続的活動への投資にも優遇措置を適用する。新たな優遇策は2023年1月から実施する。

BOI理事会で承認された新たな優遇策には、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、先端材料などのイノベーションとハイテクを伴う産業に対するプレミアムインセンティブ、新しい食品の研究・生産に対する支援策、タイの4地域における新しい経済回廊(特別投資ゾーン)の追加、投資家が指摘する問題点を解決しビジネスのしやすさを改善する特別メカニズムの導入も含まれている。

BOIのナリット長官は記者会見で、「今回の奨励措置はすべて、ハイテクとイノベーションに焦点を当てた産業能力の向上、将来の産業基盤の構築、タイを国際ビジネスの中心、地域の技術ハブにするという戦略を反映している。世界が多くの危機に直面しているこの重要な局面で、食糧安全保障、再生可能エネルギーの開発、サプライチェーンの回復力など、これらの課題に対処するためにタイの強みを生かしていく」と述べた。

5カ年投資促進戦略(2023~27年)は、タイ経済の再構築を支援し、ポストコロナの世界で勝ち残るために、タイが革新的で競争力があり、包括的であることを目的としている。技術進歩、グリーン・スマート産業への移行、人材開発、創造性と革新性を奨励し、ビジネス、貿易、物流の地域ハブとしてのタイの地位強化を目指し、バイオ・サーキュラー・グリーン(BCG)、EVサプライチェーン、エレクトロニクス製造、デジタル経済、クリエイティブ産業の5つのセクターを重点産業に設定している。今回承認された施策および特別パッケージの詳細は以下の通り。

保持・拡大プログラム

過去15年間に少なくとも3つのプロジェクトで投資優遇措置を受け、その合計投資額が100億バーツ(約2億6500万米ドル)以上の企業で、新規プロジェクトまたは投資額5億バーツ以上の拡張プロジェクトの承認を受けた長期投資家は、活動の種類に応じて、最大3年間の法人所得税(CIT)免除または最大5年間の法人税半減などの特別優遇措置を受けられる。ナリット長官は、「タイに信頼を寄せ、長期にわたって我が国の産業発展に積極的に参加してきた投資家に報いるために、BOIがパッケージを発行するのはこれが初めてだ」と述べた。

移転プログラム

移転プログラムは、地域本部、研究開発(R&D)センター、製造施設をタイに移転する企業に対し、5年間の追加的な法人所得税免除を与えるもの。製造拠点と地域本部を移転する企業にはさらに3年間の法人税免除が追加で与えられる。また、製造拠点とR&Dセンターを移転する企業には業種に応じて1年から5年の法人税免除が追加で与えられる。すべての法人税免除は、移転した製造活動からの収入にのみ適用される。

新しい産業分類の創設

ニューエコノミーへの移行を加速させるため、理事会は、持続可能な活動を促進する新しい産業分野の創設を承認した。これらの産業は特別な優遇措置を受けることができる。具体的には、水素自動車の製造、電気自動車(EV)バッテリー交換ステーションの設置、新食品、有機食品などが含まれる。再生可能エネルギーに関しては、水素製造やグリーンアンモニアなどの関連事業、水素による発電や蒸気発生などが新たに奨励される。

先端技術分野

バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、先端材料など、技術移転やタイの高等教育機関や研究機関との協力を伴う革新的で高度な技術を伴う川上産業への投資に対して、プレミアムインセンティブが付与される。BOIの分類では「A1+」に分類されるこのようなプロジェクトは、活動内容に応じて、上限なしで10年から13年の法人税免除を受けることができるようになる。ウェハー製造はこのカテゴリーに格上げされ、従来の10年から13年の法人税免除が受けられるようになる。

新しい経済回廊

理事会はまた、タイの4つの地域、合計16県を対象とする新しい経済回廊(北方経済回廊、北東経済回廊、中西部経済回廊、南部経済回廊)を投資特区として指定することを承認した。これらの地域への投資は、さまざまな優遇措置を受けることができる。4特区は、既存の東部経済回廊(EEC)に次ぐ工業・ハイテク開発地域として発展することが期待されている。

ビジネスのしやすさ

理事会は、首相府や他の国家機関と協力し、投資家が指摘する特定の問題点に対処することで、ビジネスのしやすさをさらに向上させるための特別なメカニズムとして機能することになる。

5カ年投資促進戦略(2023~27年)

タイ投資委員会(BOI)は10月12日に開いた理事会会議で、新たな5カ年投資促進戦略(2023~27年)を承認した。新戦略では、①イノベーション、テクノロジー、創造性、②競争力と迅速な適応能力、③環境と社会の持続可能性を考慮した包括性、という3つの中核概念のもと、国の経済を再構築するための投資を促進することを掲げている。

新戦略と新経済のビジョンを実現するために、BOIは以下7つの投資奨励策を推進する。①既存産業の高度化、タイが高い潜在能力を持つ新産業の育成およびサプライチェーンの全体的な強化。②自動化、デジタル化、脱炭素化への投資によるグリーン・スマート産業への転換。③タイを国際的なビジネスセンターとして、地域の貿易と投資のゲートウェイにする。④中小企業やスタートアップを強化し、グローバル市場やサプライチェーンへの接続を支援。⑤タイの各地域のポテンシャルに見合った包括的な成長を促す投資。⑥地域・社会の発展につながる投資。⑦ビジネスの拡大を求めて海外進出するタイ企業の支援。

BOIの発表によると、2022年1~9月の投資申請実績は、新規の申請件数が前年同期比8.5%増の1,247件、申請額が14.1%減の4,391億バーツ。このうち東部経済回廊(EEC)エリアでは376件のプロジェクトが申請され、申請額は2,467億バーツだった。

海外直接投資(FDI)の新規申請額は25%減の2,756億バーツ。内訳は、中国が450億バーツでトップとなり、以下、台湾が393億バーツ、日本が376億バーツ、米国が343億バーツ、香港が263億バーツと続いた。2022年1~9月の投資申請の認可件数は17%増の1,101件、認可額は57%増の3,576億バーツだった。傾向としてはEV(電気自動車)関連の投資が増えており、同期の主なEV投資は中国BYDと台湾フォックスコンによる工場建設だった。

2023年1月10日掲載

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