Start up タイ成長のカギ握る新たな経済戦士  

資金、知識、ネットワークで支援

現代の世界は競争に満ちており、新たな事業が時々刻々と生まれている。スタートアップを持ち出すまでもなく、誰でも起業したければ多くの道があるのは確かだろう。一般的に、事業の始まりは小人数が集まって動き出す。斬新なやり方で、夢を追った創造的思考が実行に移される。挑戦が始まるのである。新たな考え、イノベーションが生まれ、もしくは新製品が開発され、市場に送り出される。スタートアップなる起業の原理は、実にここにある。

タイの科学技術省傘下、科学技術開発庁のサンサニー・フワップソンブーン、ビジネス起業支援センターは次のように語る。「スタートアップとは小さな事業を迅速に軌道に乗せることです。容易に起業、そして拡大できるように、技術とイノベーションの力をフルに借りるのです。日常生活の問題を解決するアイデアが浮かんだ時、また誰も考え付かないチャンスを見極めた場合、それをいち早く経済活動に移し、成果を出させる活動です。その際、資金をサポートし、事業能力を強化。ビジネスエコシステムと事業戦略の策定を手助けします」。

9つのターゲット産業が定められている。第1に農産・食品関連、第2にインダストリー4.0をサポートする事業、第3に教育および政府事業をサポートする事業、第4に不動産関連、第5にプライベートなサービス。観光、娯楽を含む日常生活に関する事業、第6に商品に関わる事業、第7に金融・銀行関連、第8に健康・医療、第9にロジスティクスに関わる事業となっている。

スタートアップのサポートと開発計画については、政府は事業者に国内の資源による商品・サービスの付加価値増進を期待している。スタートアップが発展すれば、地方の雇用が拡大する。新たな産業が多様な芽を伸ばしてくることになる。これもまたタイランド4.0に向かう有力な潮流となるだろう。スタートアップ事業を育成するエコシステムを整備し、サポートと開発を進めることが急務となる。

「現在、科学技術開発庁は若い世代に対するスタートアップのサポートと開発の理念の浸透、動機づけを進めています。事業関連の基礎知識などを身につけさせ、技術産業にチャンスと能力を開花させるのが狙いですね。体系的に専門知識を注入する活動を進めます。起業家の卵たちに立派な起業家精神を植え付けます。すべては一人前の起業家としてスタートアップ事業で成功してもらうためです。その次に、新たな事業感覚の養成に入ります。スタートアップに適した事業計画の立て方の詰め、業種によっては技術移転などでレベルアップを進めます。特に技術移転については大学、国立の研究所などと連携し知的財産管理のプロセスに沿って進めなければなりません」。

ともあれスタートアップ事業の出発点は、事業の初心者に事業を立ち上げさせること。新たな商品・サービスを市場に送り出し、市場の反応を確かめるまで行う。市場のニーズを捉えさせ、事業を成長させることができたら合格となる。その間、各種の活動を通じて戦略感覚を鍛えられる。

「政府としては、スタートアップをサポートすることで新たな事業の付加価値向上を進め、着実に本格的に成功に導きます。新世代の事業センスを尊重して、新たな潮流として、新技術とイノベーションを導入して力をつけてもらいたいからです。大胆な発想と挑戦的な実行力に期待するところが大きいですね。創造的な思考が新たな事業の未来を開く重要な鍵になります」。

新たな起業家を続々と発掘へ

今年の政府のスタートアップの奨励方針と戦略は、4項目がすでに明確になっている。第1にスタートアップの新たな起業家の開発。デジタル技術を使いこなし、イノベーションを導入させる。少なくとも既存の事業の効率アップを助ける。「ただ事業の初心者は資金源を納得させるだけの事業計画を提案することが難しいようですね。融資を受けるため、資金パートナーを獲得するため、増資の際の資金集め・資金調達のため、この点は特に身を入れて鍛えなければなりません。国家科学技術開発室は各種の活動・プロジェクトを通じて起業家の分析力を鍛えます」。

また科学技術開発庁は、いつでもどこでも事業活動の各段階の知識の注入に力を入れています。起業家の都合に応じて必要な専門知識を提供します。特にデジタル時代への対応が焦点になりますね。

第2に専門家によるアドバイス。「事業モデルを使った本格的なものです。市場のセグメントの詰め、計画作成の際の対象(誰に見せるものか)、特に計画の力点を資金源に説明し、いかに納得させるかがポイントです」。

第3に創造的思考を分かち合い、業務に展開するビジネスエコシステムの開発。コ・ワーキングやイノベーションの空間が生命線になる。チームワーク、共同作業の最大効果を導き出すのが目的。

第4に資金源へのアクセスの奨励。ビジネス起業支援センター(科学技術開発庁)が担当する。3年目のスタートアップ・バウチャーとして新技術・イノベーション関連の起業家の事業構造を規定し、内外への市場拡大を支援する。収入増、事業拡張のダイナミクスをつけさせるのが狙い。

サンサニー氏は続けて語る。「スタートアップ・バウチャーのプロジェクトは起業家を市場に送り出し、さらに事業を拡張させるための資金面のサポートが目的です。また共同研究、研究結果の移転、商品開発、イノベーション、マーケットリサーチ、内外の展示会への出展など政府各機関の専門家がサポートします。特に技術発展のための雇用、市場拡張、収入増など多方面の新技術・イノベーション導入の内容の充実などに力を入れています。国際競争の流れに後れを取ることはなりません」。

マーケティング方面の資金支援プロジェクトは予算の75%までがリミットで、金額的には1件80万バーツが上限。ただデジタル技術事業については上限が170万バーツになる。プロジェクトの実施期間は8カ月。プロジェクトに参加する起業家の資格は、第1に2011年1月1日から201年12月31日までの間にタイで合法的に登記された法人であり、タイ人株主の持ち株が51%を超えること。第2に生産工程・サービスプロセス内に新たな科学技術・イノベーションが導入されており、すでに市場に出されて収入が上がっていること。第3にマーケティング計画があり、収支の見通しが確実に立っていること。第4に業務管理を進める経営チームが存在すること。第5に過去2年間に資金支援を受けていないこと。

支援を受けて事業拡大に成功-My Cloud fulfillment社

スタートアップ・バウチャーの対象になっているスタートアップ企業の一つ、マイクラウド・フルフィルメントは2014年から事業をスタート。当初は宝飾品の注文生産から始め、需要の流れに後れないマーケティングを進めた結果、顧客ニーズが冷えないうちに商品を供給することができようになった。

ニティ・サッジャティッパワン社長は「これで在庫の軽減が進みました。時間を取られるロジスティクスも適切になりました。とはいえ、これらの事業は最終的にうまくいきませんでした。その後、従来の事業に代えて会社をマイクラウド社に編成替えして、体系的なロジスティクスに力を入れ、商品の収納、輸送、保管のプロセスを改善。長短期の各種の商品の対応の精度を高め、商品の流れの迅速な流れにも対応し、特にオンライン・ビジネスの商品の流れに乗るようになりました」と語る。

ニティ社長の家族は以前から倉庫経営をファミリービジネスとして手掛けており、すでにハード面は整っていた。その旧式の倉庫経営に、新時代のノウハウを導入した。「オンライン時代の業界の変化に対応するためですね。これによってマイクラウド社の体系的な事業形態を進めることができました」とニティ社長は話す。

倉庫サービスの主要なプロセスは3つ。第1に収納。収納専用倉庫を保有している。第2に梱包。顧客のオーダーに従って包装する。難易度によってサービス料が異なる。第3に商品輸送。郵送やメッセンジャーによる手渡し、キャリーと集金、店頭での受け渡し、顧客による受け取りなど、各種の様態がある。

マイクラウド社が科学技術省の国立イノベーション庁(NIA)によるスタートアップ・バウチャーのプロジェクトに参加してしばらくした頃、80万バーツのマーケティング予算の支援を受けることができた。「昨年にこの30%を使って広告の動画を作りました。それをフェイスブックで流したところ、売り上げが3倍まで伸びました。顧客も3倍に増え、ファンページその他も増えました。スタートアップ・バウチャーの支援がなければ、動画も作れず、事業の拡張もなかったことでしょう」。

販売でつまずく古典的な問題が10項目あるとニティ社長は話す。「当社も例外ではありませんが、オンライン・ビジネスにかかわる業者が注意すべき点として挙げますと、第1に良い管理システムの欠如、第2に自社倉庫の巨大なコスト、第3に顧客の増加で納品遅れに、第4に納品間違い、第5に事業を伸ばす時間の不足、第6に煩雑な在庫の状況、第7に販売ルートの煩雑化、第8に従業員管理、第9に書類の煩雑化、第10に注文の波の不安定さ」。

現在、ターゲットとしている顧客は、スタートしたばかりのオンライン事業者ではなく、ある程度の経験を積んだオンライン業者。製品の品質確認や梱包、搬送など、様々な工程を自ら行ってきた事業者たちだ。「私たちが狙う顧客は、今まさに成長のまっただ中で事業の拡大に伴って、梱包や輸送に時間をかけられなくなってきたという課題に直面している事業者です。マーケティングなどに時間をかける代わりに、一部業務を代行する業者が求められているのです」。

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