世界最大のロボット大国 中国

中国では今、産業構造の高度化、少子高齢化による労働力不足、人件費の高騰などを背景に、産業用ロボットの需要が急速に拡大している。

世界一の製造大国、消費市場となって久しい中国は、2025年までに製造強国になることを目指す「中国製造2025」に取り組んでいる。中国製造2025はドイツが始めた製造業の高度化戦略「インダストリー4.0」の中国版として、ロボット産業(工作機械)を重点10分野の1つに位置付けている。中国はすでに世界最多の産業用ロボット導入国になっており、これまでに世界の産業用ロボットの約3割が中国で使用され、さらに年間数割増の勢いで導入が進んでいる。中国政府では2020年をメドに、従業員1万人あたりの産業用ロボットの使用台数を101台以上にするという目標も掲げている。

7月に国家会展中心(NECC)上海で約500社が出展した「第7回中国国際ロボット展(CiROS2018)」、および上海のもう一つの国際見本市会場である上海新国際博覧センターで開催された「上海国際自動車製造技術・装備・材料展(AMTS)」という2つのロボット関連の産業見本市を視察した。

米中経済戦争の激化から、ロボットなどの設備投資も模様眺めに陥ると見る向きもある。だが、中国の産業構造を米中経済戦争にも揺るがないよう変革させる国策を進めるためにも、中国でのロボット需要は今後も高まりそうだ。

日本のロボットメーカー各社ではこのような需要に応えるために、中国だけでなく日本でも生産体制を拡充中のところが多い。だが、中国企業にはロボットの関節(アーム)部で使う減速機といった、かつてはできなかった重要部品の生産さえ国内で開始しており、日本企業を追い上げようとしている。

アジア・ビジネスライター 松田健

日本勢追い上げる中国企業

日本人のロボット専門家からは「中国では今後さらに多くのロボットメーカーが出てくる。中国製ロボットのデモを展示会などで見ていると、ロボットの動き方などから品質が毎年上がっていると感じている。3年から5年で中国は日本勢をさらに追い上げる」と聞いた。その言葉を思い出しながら、上海でのロボット展を見学した。

中国政府商務部、中国機械工業連合会(CMIF)、中国ロボット産業連盟(CRIA)などが主催する「第7回中国国際ロボット展(CiROS2018 =China International Robot Show)」には、中国最大手のロボットメーカーを中心として、多数の中国企業が出展。2004年から毎年開催されている「上海国際自動車製造技術・装備・材料展(AMTS)」にも、中国企業や日本の大手ロボットメーカーが出展していた。外国企業ではドイツ企業の出展が断然多く、韓国企業によるパビリオンもあった。

CiROS2018の会場で感じたことは、“こんなにも多くの中国メーカーがロボットの開発、製造をしているのか”ということだった。6軸のロボットを作る中国企業も多く、部品も含む各社のブースでは、中国人女性が熱心に技術的な質問している風景を見かけたが、恐らくは購買の権限がある女性だろう。来場者には若い中国人が目立ち、熱心にロボット情報を集めていた。中国人の意欲を感じた。

中国最大のロボットメーカーとされるのが国営の新松(SIASUN)機器人自動化公司(曲道奎総裁)。同社は遼寧省瀋陽に主力工場を構えており、CiROS2018ではロボット各種の展示の他、工場の自動化、搬送、パレタイジング(食品などをパレットの上に積み上げていくロボット)、ハンドリング(製品を正確に移動させるロボット)などを使った各種ソリューションを提案していた。

新松グループに並ぶロボットメーカー、中国電気熊猫(パンダ)グループでも「大智・大器」をスローガンに掲げ、最大スペースと思われる出展規模だった。同社のブースで対応してくれた社員は、同社が中国政府と関係が深い国防産業向け生産が多いことを説明してくれたが、軍需産業で働くことに誇りを持つ親切な人だった。彼は、同社のロボットの駆動部については顧客の要望を取り入れて決めるが、パナソニックと山洋電気のサーボモーターを使うケースが多いと説明した。日本の大手の産業用ロボットのメーカーでもロボット内部の駆動部などを他の専門メーカーから購入していることが多い。中国製ロボットといっても現状ではロボットの最終組立が中国企業で行われていても、ロボットの駆動部に日本製のサーボモーターなどが使われている。

6軸までの各種産業用ロボットで年2000機の製造能力がある安徽省配天機器人技術有限公司(安徽A&E)はロボットの実機、多数を出展していた。北京、上海、安徽に研究開発(R&D)センターを構え、大学院卒を中心として220人以上いる研究スタッフにより、すでに500以上の特許も取得しているという。安徽A&Eは精密電機部品、工具などで上場会社もある大富配天グループの1社。R&Dセンターの一つとして2010年に設立された「北京研究院」では、ロボットやCNCシステム開発、サーボ・コントロール、EV(電気自動車)のコア技術開発などで政府から「国のハイテク企業」表彰を受賞している。

1993年に浙江省温州市で設立された海尚(HSOAR)集団では減速機の設計製造を始め、減速機などの自動車部品を数千万個という規模で製造し、米国のGMやクライスラー、フィアット車向けにも輸出している。機電一体化設計など広い範囲の技術を持ち、産業用ロボットを始め、医療機器、国防用機器も手掛けている。

中国で存在感増すKUKA

中国の家電大手メーカー、美的(ミデア)集団は2016年に東芝の白物家電を買収しただけでなく、産業用ロボットで世界4強の一つとされるドイツのKUKAも買収した。AMTSに出展したKUKAは、デモ機の背後に「自動化を超えた『iインテリジェンス4.0化』」というスローガンを掲げていた。KUKAは2018年1月に上海で第2工場を稼働し、年産2万5,000台に倍増させたが、2019年末までに広東省にも新工場を稼働させ、年5万台の生産体制に拡大すると報道されている。

KUKAでは、2023年までは買収前からのドイツ人による経営体制を続けていくようだが、保有している世界最高水準のロボット技術が中国に広く浸透していきそうだ。産業用ロボットを重視している中国政府の援助もある。日本のロボットメーカーの幹部は「現在の中国のロボットメーカーは日本にとって脅威」と言っていた。日本経済新聞の報道によれば美的集団ではAI(人口知能)での協業化についてKUKAと協議を始めたと伝えている。

台湾からはリニアガイドで著名メーカーであるハイウィン(本社台中市、卓永財董事長)もCiROS2018だけでなく、同時期のAMTSにロボットと直動システムのブースを出展していた。ハイウィンは5、6年前から台湾と中国で自社開発したロボットの販売に力を入れている。このロボットの内部には同社が製造しているボールネジやサーボモーターなどが組み込まれている。長年の主力製品である直動システムの紹介では、ワインが注がれた2つのワイングラスを高速移動させるデモで性能を誇示していたが、中国語で各種製品の開発、営業が行えるハイウィンだけに中国市場に同社の製品は浸透しやすいと言えそうだ。

スウェーデンに本拠を置く世界最大のベアリングメーカーであるSKFはCiROS 2018で同社製部品を使って共同開発した搬送ロボットのデモをしていた他、電動シリンダなど同社部品が組み込まれた最終部品などの展示もしていた。中国各地に工場を構える住友重機械減速機(中国)有限公司、キーエンス、オムロン、タキゲンなど6社も出展。AMTSに出展していた安川電機では、ロボットがロボットを作る工場を造り、世界有数の出荷量を誇る。6月15日には中国の安川(中国)機器人有限公司(中国江蘇省常州市武進高新区)で第3工場の竣工式を行っている。

蛇の目ミシン工業(JANOME)では人気のデスクトップロボット「JR3000シリーズ」を売り込んでいた。ロボットにステッピングモーターを使い、使い易いことに加えて高精度が出せ、生産性が飛躍的に高まるという人気商品。電気で動かす小型精密プレスのエレクトロプレス「JPシリーズ4」の紹介もしていたが、モーターは三菱電機のサーボモーターを使用していると説明された。

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