Metal Fastening工法で金属クラックの補修一筋

SMLテクノロジータイランド(坂口亨介社長)は産業設備の金属部にできたクラック(ひび割れ)の修理をタイで専門に行う日系の修理会社。金属クラックの補修は一般に溶接で行われているが、同社では熱や火を使わないMetal Fastening(金属接合)工法というタイではまだ少ない方法で修理している。設立は2006年。主にタイの発電所のタービン、セメント設備、船の発電機、エンジンとなど簡単に交換ができない大型設備のオンサイトでの修理を行ってきた。近年ではタイの自動車関連工場に導入されているプレスのフレーム、コンロッド、ギア、ラムなどの部品修理の依頼も増えている。クラックに埋め込む特殊形状のネジとロックという主要部品は韓国とタイの工場で製造されている。

火気を使用しない修理方法

Metal Fastening工法はCooled metal Stitchに分類され、熱や火を使わない機械接合でクラックを修理する。同工法は1930代のアメリカ石油産業で始まったとされ、石油産業の現場では火災要因をなくすために、火気を使用しない機械接合による修理方法が検討された。船舶では、機関整備士指導書にも「メタロック」の名で紹介され、「メタロック協会」はタイにも支部が置かれている。Metal Fastening工法も「メタロック」「メタルロック」と呼ばれることがあるという。

船舶以外の業種であまり知られていないのは、応急処置しかできないと判断されているから、または、「機械接合の優位性」「設計すること」を怠って信頼性が低い修理を提供しているからではないか、と坂口氏は推測する。「溶接技術の進化、信頼性の向上も、Cooled metal Stitchが広く普及しなかった理由でしょう」。しかし、「ものづくりの溶接」と「修理の溶接」は全く異なり、溶接が適さない修理もたくさんあるという。

同氏の説明では現在でも不安を感じながら溶接による修理が行われているケースが非常に多い。理由は、溶接師の技量や溶接手法、管理など。しかしMetal Fastening工法は「機械接合」でクラックを修理するため、応力計算で修理手法を決定することができる。すなわち現場での溶接修理でよく言われる「やってみなければ分からない」といったリスクを机上の計算で軽減できる。溶接の様に作業姿勢や作業者の技量で品質が大きくバラつくこともない。しかし、クラック修理において「Metal Fastening工法が最善ではない。クラックによりどのような手法が最善であるかを判断することが大切」と坂口氏は説明する。

同社では発電所・セメントプラント、船舶、金属・樹脂成形などで使用される大型設備で発生するクラックの現地修理を得意にしてきた。鋳物、軟鋼、特殊鋼の修理もしている。特殊鋼などの不安、溶接歪で懸念される設備の再調整なども不要となるか軽減される。「火を使わない機械接合だからこそ母材を傷めない。机上での安心設計、そして現場で火気による危険を伴わない安心な修理が提供できます」。

SMLテクノロジータイランドが受注する金属クラックの補修は、鋳物、特殊鋼等溶接が難しいもの、溶接による歪で修理後の製品精度に不安があるもの、熱による経年変化で問題が起きるもの、購入するには納期が長いもの、分解するのに手間がかかるもの、そして、持ち運びが困難なものが多い。Metal Fastening工法では鋳物や特殊鋼など溶接が難しいものも修理が可能で、2次クラックの発生や熱歪による調整作業も不要となる。SMLテクノロジータイランドでは補強による恒久修理、クラック進行の遅延、応急処置、破損部の復元などを工場の限られた停止時間だけを利用する段階的な修理も行っている。

主要な取引先はタイ国鉄や発電公社(EGAT)などタイの国営企業も多く、タイの最大手企業で王室系のサイアムセメントも主要顧客の1社。大型の金属プレスなど日系自動車関連からの修理依頼も増えつつある。「現在はタイの公営企業を含むローカル企業の仕事が8割で、日系企業からの仕事は2割程度。目標数字こそ決めていないが日系企業向けの仕事を増やしたい」と坂口氏は考えている。

2度とクラックを起こさせない

これまでに修理したプレスは200トンから6,000トンまで。その一つが400トンプレスのメインギアの5本の歯が完全に切れ落ちたというケースで、切れてしまった歯の形状はきれいだった。顧客からは「工場の停止時間を限りなく短縮したいので切れ落ちた歯の再利用ができないか。溶接では他の場所も含めいつ壊れるか気が気でない」と相談され、受注。歯の取り付け作業と補強作業は3日間で終了させた。「修理後、同社では8カ月間を問題なく使用されましたが、今後のリスクを回避するために新しいギアに交換されています。この8カ月間に修理に関わる原因での生産停止、追加作業は無く、なにも異常が出ませんでした」と坂口氏。

また、セメント工場で使用される円周9メートル以上のセメントミルの胴体に1500ミリのクラックが発生したケースでは、停止時間を作らない方法は無いか?」と相談され、12時間だけ生産スケジュールを変更してもらい、後は生産スケジュール通りの停止時間に計3日間かけて応急修理。6カ月の経過観測を踏まえ恒久修理を行ったが、これも生産スケジュールを変更することなく2日間で実施した。従来の溶接による修理では、2~3カ月おきに修理を繰り返し、修理作業が完了するまで生産を止めざるを得なかったという。修理を実施した2014年以降、現在に至るまでクラックは再発していない。このセメント工場の修理費用、修理のための生産停止時間が減ったのは同社の修理によるものだと気づいた外資系の保険会社から面接を受けたこともある。この保険会社では修理後に同工場の保険料を引き下げている。

営業エリアはタイ国内だけで、北はチェンマイ、南はスラーターニーで修理を実施したことがある。顧客から国外での依頼を受けることもある。スラーターニーとサムイ島とを結ぶフェリーのエンジンのクラックの修理に出向いた際は船を見て驚嘆したという。坂口氏は瀬戸内海に浮かぶ香川県小豆島の出身。修理することになったフェリーはかつて小豆島と高松を結んでいた船で、かつて乗ったことがある船だった。船体に描かれている文字で一目瞭然だった。

創業当初は「そんな方法で修理ができるわけない」と詳しく説明を聞いてもらえないこともあったが、「当然です。そもそも自分がまだ理解できていないこともある。そこから無料修理してでもクラックを見る、予測する、実践する、作業現場で確かめる、経過を見る、予測に立ち戻るという作業を少ないチャンスの中で繰り返してきました。クラックだけを見てはいけない。機構・構造を理解し、クラック原因を推測しなければならない。そこに役立ったのがかつて日本で培った設計とものづくりの経験でした。Metal Fasteningはあくまで一つの修理手法であり、修理をしなければ誰にも理解されないと考えられるようになりました」と坂口氏。

同じ設備で2カ所のクラックが発生し、Metal Fasteningと溶接を比較してもらったこともある。結果、溶接は3カ月で再度破損。Metal Fastening方法では数年後の現在でも再修理なく稼働していることが評価されている。近年ではこれら口コミの他、タイ語のホームページにより年間40件ほどが受注できるようになっており、その大半がリピートである。

まだ工場は無く、バンコクの本社が事務所兼倉庫で機械工具や部材を積んだ修理専用車を保有。従業員は5人で、坂口氏とタイ人の男性エンジニアが一緒に修理する工場に赴くことが多い。人手が必要な緊急事態が発生した場合は協力会社からの応援が得られる。1日で終わる場合の修理では3~5万バーツが多い。検査は無料。「大手企業では超音波の非破壊検査でクラックの内部の様子を調べたデータを見せて下さることもありますが、様々な形状に発生するクラックの超音波検査は相当の熟練度が無いと正確に状態を把握できません。作業を始めてみると私の予想通りに超音波試験結果よりも数倍深いクラックが発生していたケースもありました」と坂口氏。

坂口氏は大阪産業大学機械工学科を卒業し屋外照明器具の製造販売を行う国陽電興に入社。2006年に国陽電興の吉川博之社長(現在会長)が親しくしているSML-Technology(埼玉県川口市、松橋智博社長)からタイで新規事業を立ち上げるので手伝って欲しいと言われたことが、タイ法人設立の契機だった。国陽電興はMetal Fastening工法を使ったサービスがタイでは珍しく、市場も大きいはずだと提案。そして国陽電興49%、タイ側51%出資によるSMLテクノロジータイランドを設立した。日産自動車と合弁で自動車生産もしているタイのサイアム・モーターズ・グループのオーナーと松橋社長が高校、大学時代からの友人関係にあり、「設立当初からお力添えを頂いています」(同)という。

国陽電興でタイに赴任する従業員を募集したところ、「行ったこともない新天地で新たな仕事に挑戦してみたい」と入社8年目30歳だった坂口氏が手を挙げた。「学生時代に欧州に一度行っただけでタイ語どころか英語もできない、右も左もわからない状態」でタイ駐在が始まった。「溶接での鋳物修理は難しく2次クラックも起こりやすく諦められているケースも多いが、我々は2度とクラックを起こさせない!を合言葉に日々取り組んでいます。そして顧客が抱えているクラック発生による稼働停止といった不安の解消に寄与してきました。困ったことがあればすぐに相談してもらえる会社になること」が目標。

会社情報

会社名 SML-Technology(Thailand)Co., Ltd.
住所 8th Floor, Siam Motors Building 891/1, Rama 1 Road, Wangmai, Phatumwan, Bangkok 10330
お問い合わせ先 Tel/Fax:02-612-3452 E-mail:infothai@smlthai.com
担当者名 担当:坂口 E-mail:sakaguchi@smlthai.com
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