人を想い、場を創る。 タイに働き方改革の波

オフィス家具大手の岡村製作所が今年4月1日、「オカムラ」ヘと社名変更を行った。社名は1945年に神奈川県横浜市磯子区岡村町で創業したことに由来。2015年には創業70周年を迎えており、略称やロゴとしても広く認知されていたオカムラに統一した。変更に伴い、「豊かな発想と確かな品質で、人が集う環境づくりを通して、社会に貢献する」とミッションを明文化。家具メーカーにとどまらない空間デザインのトータルソリューション企業として一層の飛躍を期す。

自社工場オフィスをライブオフィスへ改装

昨今、日本でも盛んに話題に上る働き方改革。労働人口の減少傾向やデジタル技術の発展に従って、オフィスの在り方も変わり、より効率的、創造的な仕事が出来る空間が求められている。オカムラでは今年、新しいラボオフィス「CO-Do LABO」を東京に開設した。コンセプトは、自分で主体的に考え、行動する、“考動”するためのオフィス。それまでの4拠点、11部門、共創空間(計約1,700平方メートル)が1拠点、9部門(フリーアドレス)、共創空間(計約1,380平方メートル)へと集約された。各部門の占有スペースを最小化し、共有スペースを増加。考動を促す様々な機能空間が展開されている。

その流れは、タイにも広がっている。オカムラは1988年、スチール家具、ストア製品、倉庫用ラックなどの生産拠点としてタイのサムットプラカーン県にサイアム・オカムラ・スチール(以下、SOC)を、1996年には販売会社のサイアム・オカムラ・インターナショナル(以下、SOI)をバンコクに設立している。タイ進出30周年を控えた昨年、SOCのオフィススペースを大きく改装。ショールームとしての機能を持たせたライブオフィスとして、工場オフィスの新たな形を顧客に発信している。「30年も経つとトイレや食堂、ロッカーなども老朽化してきます。従業員のモチベーションを上げるためには、心地良い空間で働くことが最重要」とSOCの緒方仁代表取締役は語る。

キーワードとなったのが、人とのコミュニケーション、コラボレーションだ。今ならIT技術の進化で、一人でパソコンに向かっていても、大抵の業務は完結できてしまう。ただ、それだけでは新たな仕事のアイデアなどは生まれにくい。気になってはいても、改めて報告するまでもない事柄を抱えているケースもある。やはり、人とのコミュニケーションが欠かせない。そこで、人と人が出会い、何気ない中でもコミュニケーションが図れるように、いくつもの仕掛けが今回の改装で施された。

まず、来客との打ち合わせにも利用できるオープンミーティングエリアが設置された。一日を通して人の往来がある入口に置かれたので、自然に人と人が接触し、コミュニケーションが生まれやすい。壁面を作ることで部内者と部外者の区分けが明確になり、セキュリティーが向上した。壁面には製品紹介や納入事例なども展示されている。

オフィススペースに入って目につくのは、従業員の顔写真と名前が壁に飾られたメンバーボード。はじめは人事で撮影した写真を使用していたが、やがてサイクリングなどの趣味を楽しんでいる姿や、自分で撮影したお気に入りの一枚、中には随分前の若かりし頃の写真に入れ替える社員も現れるなど、社内のコミュニケーション向上に一役立っている。

そして、新たに導入されたのが、電動の上下昇降デスク「スイフト」だ。仕事は座ってやるものというイメージを抱きがちだが、オカムラが研究機関と行った検証では、座り仕事と立ち仕事を組み合わせることで、体への負担や集中力にも良い影響を与えることが明らかになったという。SOCでは「スイフト」をクイック・ミーティング用の机に使用。会議の目的に合わせて高さを変えている。「立っている時はコミュニケーションを取りやすいといわれており、短時間でポイントを押さえた会話ができます」(緒方氏)。

また、社内は直線で通路を確保、動線を明確にして安全性と効率性が向上した。通路部分にロッカーなどが置かれていないのは、地震などで万が一倒れた際に通路を塞がないように、という日本の設計思想を持ち込んだもの。コピーコーナーや収納スペースもわざとオフィスの隅に配置し、いやが上にも人の行き来が生まれるようにしている。

改装後、新しいオフィスをきれいな状態に保ちたいと、タイ人従業員の提案でオフィススペースが土足厳禁になるなど、よりオフィスへの愛着が生まれてきている。同社では積極的にオフィス、工場の見学を受け入れている。

タイでも受け継がれるオカムラのものづくり

航空機製造の技術者が中心となって創業されたこともあって、オカムラはものづくりの面でも異彩を放ってきた。1951年に初の純国産トルクコンバータを開発し、1955年には国内初のFFオートマチック車「ミカサ」を完成させている。その間、1953年には戦後初の国産飛行機「N-52」も製造した。「ミカサ」は1957年から1960年にかけて約500台ほど販売され、2015年には日本機械学会の機械遺産に認定されている。現在もトルクコンバータはトヨタ系列に納入。工場管理面でもアドバイスを受けているという。SOCの緒方氏は「ものづくりに対しては、市場調査から製品開発、製造に至るまでこだわりを持って対応しています」と話す。

タイのSOCはオカムラが3カ所持つ海外生産拠点の一つとして、ワークステーションやデスク、椅子、ストア向けの店舗什器、ラックなどを日本および東南アジア向けに生産している。最新鋭ファイバーレーザ加工機をはじめ、NCタレットパンチプレス、射出成型機などを導入し、プレスにはじまり、溶接、塗装、組立、樹脂成形も行う一貫した生産体制を整えている。オフィス環境から商業施設、公共スペースまで手掛けるオカムラの多彩なラインナップに対応するため、セル方式の多品種少量生産の組み立てラインを構築している。

開設から30年を経て、高い板金技術を蓄積。スチール製のキャビネットやワゴンなどの品質に反映されている。「品質管理も日本の水準で行っており、それをクリアしないと商品化しません」(緒方氏)。生産拠点を持つことで、販売にも相乗効果をもたらしている。「タイにオフィス家具の工場を持つ日系メーカーは当社だけです。生産管理から納期管理、アフターサービスまできめ細かなサービスを提供しています。そのため、タイの日系企業のオフィスでは当社は圧倒的なシェアを持っています」(SOIの松本伸一代表取締役)。

タイではオフィス家具と店舗向け什器の販売を柱としている。「新しい工場進出が少なくなっているのは事実ですが、進出されて10年、20年というお客様が多くなっており、移転、改装といったお客様の動き自体はたくさんあります。タイ企業でも先進的なオフィスを取り入れるところが出てきました。ストアの方も、各社から出店計画が出されており、全体的に景況感は良いと思っています」(松本氏)。

オカムラがタイで強みとしているのが、水などの重量のある商品を載せる陳列棚。店では商品が売れていくにつれ、取り出しやすいよう後ろから前に並べていく。水のペットボトルなど重い品なら、棚の前部に大きな荷重が掛かる。その耐荷重性能が評価され、タイの大手スーパーマーケットなどにも採用されている。「日本でもストア向けのビジネスを手掛け、トップシェアを誇っています。その中で培った設計ノウハウがあります 」と緒方氏。

タイでも少子高齢化が進み、経済発展に伴って働く空間の在り方が変わろうとしている。優秀な人材を確保するためにも、生産設備への投資に加え、生産を担う人への投資が求められる時代になっている。

会社情報

会社名 SIAM OKAMURA STEEL CO., LTD.
住所 51/5 Moo 2 Poochao Rd., Bangyaprak, Phrapradaeng, Samutprakarn 10130
お問い合わせ先 Tel:02-384-0075 E-mail:info@siamokamura.com
担当者名
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