電磁石による自動搬送を提案 段取り替え時間大幅減実現

自動化された部品の搬送工程には、真空パッドやクランプが使われるケースが多い。それらに加えて、電磁石を用いた自動搬送も行われているのをご存知だろうか。フジタ(本社:三重県桑名市、藤田初彦社長)では、長年培った電磁石制御技術による搬送工程の自動化を提案している。電磁石を用いた搬送のメリットはどこにあるのか、タイを訪問した藤田社長に同社の電磁石制御について聞いた。

独自コントローラーで残留磁気が激減

電磁石による搬送の一つの大きなメリットを藤田社長は「段取り替えがなくなり、ツールを減らせることです。鉄に限られますが、ある程度吸着する面積が合えば、全部同じ磁石で搬送できます」と話す。多品種の部品を生産している工場なら、ワークが変わるたびに真空パッドやクランプを変える必要がある。それらを保管する場所も要る。また、ある程度のスパンで劣化した真空パッドを交換しなければならない。フジタでは顧客の仕様に合わせて、多品種のワークに対応できる電磁石を都度設計しており、段取り替えする必要がない。また、電磁石は半永久的に使えるため、交換する手間がない。エアーの配管も要らなくなる。さらに、「運んでいる時だけ電気を使うので、大きな省エネになります」と藤田社長。実際に電気使用量の大幅減が採用の決め手になった事例もある。

さらにフジタが独自に開発した電磁石コントローラーは、電磁石による搬送の大きな懸念となっていた残留磁気をほとんど残さず、離脱時間は0.2秒程と高速で安定した離脱が可能となっている。また、吸着時の磁力は3段階まで設定でき、例えば積み上げられた薄板の1枚吸着や、バケット内に山積みになったランダムワークの1個吸着が可能。吸着、離脱の各条件を任意に設定でき、磁力パターンは最大15通り記憶可能で、少量多品種の生産ラインに適したきめ細かな対応ができる。「少量多品種だと鉄でも体積はそれぞれ異なります。磁気の入り方が違ってきて、同じ制御では離れないワークが出てきます。弊社のコントローラーなら15通りまで記憶でき、磁石は変えずに磁力のデータを制御することで、様々なワークに対応できます」と藤田社長は語る。

フジタでは多彩な電磁石のラインナップを持つ。磁極が可動してあらゆる形状のワークに対応できる針千本型電磁石。サイズが豊富で多種多様なワークに対応し、小型でも強力な吸着力を持つ丸型電磁石。鋼板・薄型ワークに適した角型電磁石。馬蹄型電磁石は吸着面をV形形状(特注対応)に変更することで、丸棒材などにも安定した吸着ができる。棒型電磁石は点接触タイプで鋳造部品など異形状ワークに対応。中空型電磁石は薄型形状でプレス機などの狭いスペースにも取り付けられる。これら標準品を基本とした上で、「全てのワークを網羅できるマグネットを構築しなければいけませんので、受注の7割は特注品です。標準品も顧客の仕様に合わせて受注生産しています」と藤田社長は説明する。

納期は通常約1カ月となっているという。日本の本社およびタイでフジタの製品を扱っている商社S.M.N.D.(Thailand)には実機が置かれており、デモンストレーションを見ることができるほか、「サンプルワークをお借りできれば、社内でテストを行い、磁気がどれくらい残るかなどのデータを無償で提供します」(藤田社長)。コントローラーが故障した場合は、交換対応になる。在庫はS.M.N.Dに保管されている。また、はじめから予備のコントローラーを顧客の方で持つケースもある。

プレス機の2枚打ち防止検知装置を開発

同社は1966年創業。もともとは電磁ブレーキ、クラッチの開発製造を行っていたが、1990年に電磁石制御技法を開発。1991年には電磁石コントローラー「フジタの省磁くん」を完成させた。同業のメーカーとしては後発ながら、徐々に顧客は広がり、今では大手自動車、建機、農機メーカーが採用。積み重ねられた鉄板の一枚吸着や、プレス成形品の吸着、小物部品などランダムワークの一括吸着および一個取り出し、リング形状ワーク、シャフト材の吸着搬送などに使われている。

藤田社長は2代目にあたり、2010年の社長就任後、海外展開に乗り出した。「自動車産業が国内売上の大きな割合を占めていますが、将来的に日本で電気自動車の普及が広がれば、エンジンがなくなって鉄の部品が圧倒的に少なくなってしまいます。樹脂の導入も進んでいます。今のうちに日系企業も多く進出しているタイなどに足がかりを作っておきたい」。今ではタイの他、S.M.N.D.の本社があるマレーシア、さらにフランスでも扱われ、大手自動車メーカーなどに納入例がある。タイにも頻繁に訪れ、S.M.N.Dの協力も得て打ち合わせなどに奔走している。将来的にはサービス拠点設立も構想する。

今後は電磁石制御の技術を使って、搬送にとどまらない新たな分野への商品展開を目指す。例えば、磁力を用いた検知装置。プレス工場などでは、2枚重なった鉄板をプレスする2枚打ちによって金型を破損させてしまう事例がまれに起こる。大きな金型になれば、損害は数千万円に及ぶ。生産ラインも停止してしまう。もちろん、2枚打ちを予防するためにセンサーも付けられているが、それでも読み取れずに2枚打ちが発生してしまうことがある。そこでフジタは磁力を使って板厚を検知する装置を開発した。マレーシアでは既に販売しており、タイでもある工場で試験導入したところ、2枚打ちが皆無になったという。

自動車以外にも、半導体装置メーカーやパン工場などに納入したこともある。「“こんな使い方もあったのか”と、ユーザーの方から勉強させてもらっています。まだまだ認知度が低く、回り切れていない。おそらく倍くらいの市場があると思います。また、搬送にとどまらない、磁石の技術を使った新しい製品を開発して市場に送り込みたい」と藤田社長は意気込む。

独自技術持った中小企業をサポート

省人化はもとより、品質の安定のためにも自動化は必須。S.M.N.D.でシニアテクニカルアドバイザーを務める石川浩氏は「タイはようやく自動化の波が来ました」と語る。マレーシアで先行してフジタの電磁石を取り扱い、2015年からタイでも展開。自動化設備を手掛けるシステムインテグレーターとも協力して提案している。

「今は日本で既に使われている日系企業に採用されるケースが多いですが、我々としてはエンジニアの方とできるだけ密に話し、彼らが持つ“磁石を使うとワークに磁気が残って使えない”という先入観を取り除き、長い目で見ればコストダウンになる、省エネにもつながることを理解してもらう、という地道な作業を行っています」(石川氏)。

S.M.N.D.はマレーシア資本100%の商社で、もともとは石油や火力発電所関連の仕事を手掛けていた。そこへ石川氏が「オンリーワンの技術を持った日本の中小企業を紹介していきたい」と、フジタの電磁石および坂口電熱(本社:東京都千代田区)の工業用ヒーターの取り扱いを始めた。「坂口電熱のヒーターはローカル製品とは品質が違う。マレーシアでは徐々にリピーターが増え、今はたくさんの引き合いをいただいています」。

日本、マレーシア、タイを頻繁に行き来する石川氏は「タイの景気はようやく戻ってきました。自動車販売も回復して、良い流れにあります」と見立てを話す。タイは政府のタイランド4.0政策の下、産業高度化を目指して自動化の推進に力を入れている。波は到来している。S.M.N.D.(Thailand)のウィソン社長は「私どもではフジタ、坂口電熱のほかにも、電子部品、ソーラパネル、LEDなどたくさんの商品を取り揃えています。また、現場の“見える化”を実現するSCADA(監視制御システム)も取り扱っています。お気軽にお問い合わせいただければと思います」と呼びかける。

会社情報

会社名 Fujita Co., Ltd.   S.M.N.D.(Thailand)Co., Ltd.
住所 89/364 Town Avenue Merge Ratthanahibet, Ratthanahibet Rd., Soi Watmadier, Bangtukyai, Bangbuathong, Nonthaburi 11110
お問い合わせ先 石川 Mobile:+66(9)-4353-0432, +60(1)0227-7248 E-mail:h.ishikawa@syawalengineering.com トン(タイ語)Mobile:+66(9)9159-7779 E-mail:sagunrak@syawalengineering
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