コロナ禍がもたらしたリモート営業の新活用 日タイ法人の連携強化で金型市場も開拓へ

世界市場を席巻した新型コロナウイルスの感染拡大から半年。製造各社は打撃を受け、表面工学の専門家集団「HEFグループ」(本部フランス)のタイ法人「Techniques Surfaces (Thailand) Ltd.」でも一時、売り上げが低減するなど影響は深刻を極めた。頼みの綱だった自動車業界は生産を抑制し、その余波を受けて部品の表面処理需要も大きく落ち込んだ。現在は徐々に回復を見せるが、国境間の移動が制限され営業活動にも限りがある。こうした中、同社が活路を見出そうと始めたのが、日タイ法人の連携強化とリモートを活用した新たな営業スタイル。これまで限定的だった金型市場への浸透にもつなげようと意欲的だ。

たった一人の日本人駐在員

「リモートを使った営業を、ここまで活用することになるとは思ってもいなかった」と話すのは、Sales Managerの阿部文俊氏。新型コロナによる事実上の国境封鎖で、タイ法人を日本から支援しているアドバイザーの金森高司氏がタイに入国できず日本にとどまる中、たった一人の日本人駐在員として日系企業への営業展開やサポートを続ける忙殺された毎日だ。タイの旧正月ソンクランが振り替えられた9月上旬の祝日も、東部チョンブリ県のアマタシティー・チョンブリ工業団地内にあるオフィスに出向き、事務作業をこなした。  5月、6月の単月は、例年の半分近くまで売り上げが落ち込んだ。先の見えない市場の行方に、部品メーカーが一斉に発注を抑制したのが原因だった。ところが、タイ政府によるコロナ対策が目に見える形で好転すると、自動車業界も段階的に復活。受注量も回復を見せ、取材をした9月上旬の段階では、ほぼ平年並みに戻りつつあった。  この間、日本とタイの両法人が見直しを進めたのが、日本とタイの連携強化だ。フランスに本部があることから、これまでフランスとの縦のラインが必然的に強化されてきた。だが、技術力や先進性では欧米に引けを取らない日本の市場。本部並みに体制が強化された日本法人を活用しない選択は考えられなかった。

連携の効果は計り知れない

こうして強化された日タイ連携。それは、タイ法人の無限の可能性を引き上げることを意味する。試作、研究開発(R&D)、技術サポート、リードタイムのさらなる短縮など「その効果効用は計り知れない」と日本法人トップを務めるフランス人のジュリアン・グリモ氏も語る。タイを預かる阿部氏らと連日にわたってオンライン・ミーティングを重ねるなどしている。  その最中に新たに着目をされたのが、インターネット回線を活用した新しい営業やサポートのあり方だった。「営業とはフェイス・トゥー・フェイス。相手先に出向いて行うという考え方がすり込まれていた自分にとって、リモート営業ができないかと問われた時は衝撃を感じた」と阿部氏。試しに、既存の顧客に照会してみると予想を超えた好回答が返ってきた。  ワクチン開発の目途もなく、依然として世界規模で猛威を振るう新型コロナ。いくらタイ政府の衛生対策が万全を期していたとしても、この先、何が生じるか分からない。火中の栗を拾うほどのリスクを負担する状況にもない。営業にしてもサポートにしても、リモートでできるものはリモートで。それが顧客との信頼の中で編み出したコロナ禍における選択だった。

金型向けのセルテス®シリーズPVD処理

自動車業界が回復する中、有望視されるのが、ゴム成形やプラスチック成形といった樹脂部品等を製造するために作られる金型市場。金属部品に比べかかる負担が軽いと思われがちだが、近年採用が目覚ましい繊維強化プラスチック(FRP)では、樹脂に含まれる繊維成分が金型を傷め、負担をかけている。  加えて、粘性のゴムやプラスチック素材はカスや汚れが金型に張り付きやすく、剥がれにくさが製品の精度や生産性を下げてしまう。さらには、頻繁な清掃作業が経営コストを圧迫。こうした欠点を予防し、生産効率を引き上げるために行うのが金型へのセルテス®シリーズPVDコーティングというわけだ。  被膜について日本法人グループのナノコート・ティーエスが高い評価を得ており、日本では認知度が高い。成膜工程はもちろん、成膜工程以外(洗浄、検査等)にもノウハウが豊富だ。アークIPのようなドロップレットがなく、平滑な表面が得られる。混載処理だけではなく、カスタムメイドレシピでも対応可能だ。  2019年に導入された中型装置は、ゴムやプラスチック製品などにも対応できる高性能な一台だ。小回りが利き、顧客のニーズに応じた多種多様な仕上げを得意とする。

タフトライド®処理

同社が登録商標する「タフトライド®」は、450~630度の範囲で塩浴(ソルトバス)に被処理物を浸し、表面に数十ミクロン程度の窒化層を形成させる塩浴軟窒化処理技術。軟窒化処理の主流であるガス軟窒化処理は、アンモニアを使用するため環境や人体への負担が大きい点が懸念されていたが、この処理によって有害なアンモニアガスを使用せず、独自開発の塩浴材により人体・環境への影響を最小限に留めつつ、金属製品の表面はより堅牢さを増し、製品の耐久性は格段に向上する。  一般的な塩浴窒化プロセスでは、窒化工程で使用されるソルトは濃縮シアン化物(約45%CN)だが、HEFが提唱するタフトライド®プロセスは、シアン化物を含まない塩基性のソルトを使用している。  また、標準的な窒化処理工程では、耐食性が中程度にのみ増加するが、酸化ソルトにパッシベーションさせ、その後含侵工程を行うことにより、大幅に耐食性が向上する。そのため、タイでは従来、一般的なクロムメッキが中心であったところ、近年ようやくTSタイランドのタフトライド®処理が市場に広がりクロムメッキの代替になるようになった。

自動車部品のセルテス®DLC処理

Techniques Surfaces (Thailand) Ltd.は、これまで主流であった自動車部品に加え、各種産業向け金型の表面処理加工も強化していく。タイ法人が持つ工場の建屋内には、フランスの本部で独自のノウハウを元に開発製造された成膜装置がずらりと並ぶ。  主に自動車部品向けに開発された大型装置では、真空の中でプラズマを発生させ、ダイヤモンドの強度に近いカーボン膜をコーティングさせるセルテス®DLCコーティングを行う。これにより滑り性と耐久性が一段と上昇。焼き付きの防止と摩擦の低減が図られるようになった。  HEFトライボロジー知識を踏まえて最適な膜種選択を行い、日本のトライボロジーラボで評価後の分析対応が可能だ。需要が増えて2021年前半には日本で水素フリーDLC(セルテス®TC)用の設備導入が始まり、タイでも同様の導入の検討が進む。

2020年10月1日掲載

会社情報

会社名 Techniques Surfaces (Thailand) Ltd.
住所 Amata City Chonburi Industrial Estate,700/15 Moo 6, T. Nong Mai Daeng, A. Muang Chonburi, Chonburi 20000
お問い合わせ先 TEL +66-38-213-818 FAX +66-38-213-789
担当者名 (JP) 阿部: abe.fu@hefthai.com +66-8-02-522-898
(TH/EN) Natitorn Prasertwong:natitorn.pr@hefthai.com +66-8-38-350-845
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