安心と安全のドライバー派遣事業スタート 創業90年の大手バス事業者がタイに進出
兵庫県を中心とする路線バス事業者で、2017年に創業90周年を迎えた神姫バス(本社:兵庫県姫路市、長尾真社長)。路線バス、高速バス、タクシー、運転士派遣などの輸送事業を核に、住宅建築・賃貸・販売といった不動産、観光、自動車整備・販売など事業の多角化を進め、グループ全体で25社を抱える地域密着型の企業だ。2017年3月期の連結売上高は約450億円(東証上場)。独立系のバス会社としては日本で最大規模を誇り、日本バス協会の前会長は神姫バスの上杉雅彦会長(故人)が務めていた。そんな地場企業の雄が日本を飛び出し、2017年2月にShinki Bus Transport Integration Co., Ltd.(以下、SBTI)をタイの地に設立した。その狙いと展望を聞いた。
厳選されたドライバーで信頼を提供
神姫バスは既に売上高の半分以上をバス以外の事業で占め、多角化に成功しているように見える。それでも、自らタイ進出を主導したSBTIの三木公仁MDは「私共は地域に密着したサービスを提供しています。日本の人口が減少する中で、地域の人口が減ると当然売上にも影響が出ます。長い目で見ると右肩下がりにならざるを得ません。日本以外から収益をあげることを目的として、海外事業に乗り出しました」と狙いを語る。
タイで展開している事業の一つが、日系企業へのドライバー派遣サービスだ。タイで生活する日本人なら、タクシーの運転の荒さなどにヒヤッとした経験が少なからずあるだろう。交通事故は頻発し、社会問題にもなっている。三木MDは「4年ほど前から出張ベースでタイに来ていましたが、公共交通機関などを利用すると、日本のドライバーのスキル、サービス精神とのギャップが大きい。話を聞いてみますと、日本人駐在員の方もストレスを感じている。私共も日本でドライバー派遣サービスを半世紀近く行っておりますので、日本と同じサービスをタイで展開したら、駐在員の方のストレスも軽減でき、私共にもビジネスになるのでは、とスタートしました」と背景を語る。
現在提供しているのは、ドライバーのみの派遣、ドライバーおよび車両のリース(年間または月間契約)、1日から可能な空港送迎や観光などのスポット利用。顧客の安心、安全を担保するためには、ドライバーの質が鍵となる。SBTIでは採用の段階から厳しいふるいにかけている。まず面接の時点で、身だしなみ、人柄、態度などを細かくチェック。「私共のドアサービスなどを説明すると、“私は運転するだけだ”と帰ってしまう応募者もいます」(垣内雅人ダイレクター)。その後、薬物検査、入れ墨確認や内田クレペリン検査を用いた適性検査、運転テストなどを経て採用となるが、「10名面接して、1名残るかどうか」(垣内ダイレクター)という狭き門となっている。
入社後には、最短でも2週間に及ぶ研修プログラムがスタートする。使用する日本の研修ビデオは、分かりやすいようタイ語に吹き替えている。ほか、スワンナプーム空港や日本人がよく訪れる場所への実地研修、交通ルールやマナー、地理、車の点検、清掃、ドアサービスなどのおもてなしなどをあらためて教え込む。指導のまとめ役となるタイ人マネージャーは日本で研修を受け、日本のサービスを熟知している。
その上で、実技テスト、筆記テストで一定の水準に達した者には証明書が発行され、晴れて顧客の下に派遣されることになる。垣内ダイレクター曰く、大きなポイントが2つあるという。「一つ目はドライビングテクニック。安全は当然として、ブレーキ、アクセル、車線変更などをスムーズに行えるか。お客様をどれだけスムーズに目的地までお運びするかが大事です。二つ目は、もてなそうという気持ちです。お客様が何を求めているのかを察知して動けるか。その2つを持ち合わせるのが意外と難しい。“安心”はお客様ご自身が感じるものであり、 “安全”と“快適”の2つを提供することで初めて“安心”を提供できます」。
サービス開始後も細かなフォローを実施
ドライバー派遣後も、ドライバー、顧客の双方に定期的にヒアリングをし、問題点などがないかを確認する。また、SBTIのオフィスでは、日本人または日本語能力試験N2、N3を持ったタイ人が、顧客とのコミュニケーションにあたっている。緊急時に備え、予備ドライバーも常時待機している。
プロドライバー教育、薬物検査などを徹底するため、ローカルのドライバー派遣業者に比べれば、料金はどうしても割高になる。当初は金額面で見送られることもあったが、「ドライバー教育にはこだわっていましたので、そこは妥協しませんでした。最近では、お客様の安全に対する意識も変化してきたのか、問い合わせも多くいただいています」(垣内ダイレクター)。“タイだから仕方ない”と妥協して万が一事故に遭えば、取り返しのつかないことになる。2018年も新規の派遣先が次々と決まっており、現在、ドライバーの育成を進めている。
ドライバー派遣事業の他、SBTIでは関西を拠点とした訪日外国人向けのツアーを現地代理店に販売している。日本を訪れるタイ人は年々増加しており、2016年には90万人を突破した。三木MDは「タイは個人旅行の方が非常に増えています。航空券だけ半年程前に安く押さえて、内容は後から決める旅行形態が多いです。そういった方々向けに1名からでも出発する手軽な観光パッケージを企画しています。特に人気があるのは、大阪発京都1泊2日、京都日帰り、神戸日帰りといったツアー。東京や大阪、北海道は既に回られたというリピーターの方も多く、最近では城崎温泉も問い合わせが増えています。」と語る。また、本社のある兵庫県からタイ観光デスクを受託しており、兵庫県の観光情報をタイ人に向けて発信している。さらに、今年から不動産投資プロジェクトもスタートし、収益基盤を固めていく。
三木MDは神姫バス入社以来、税理士資格を活かしてグループ全体の経営戦略や新規事業開発に携わって来た。垣内ダイレクターは神姫バスのグループ会社入社後、総務、経理を長く担当した後、ドライバー派遣サービスのマネージャーを務めていた。三木MDとは業務で関わる機会があり、実は親交が深い。そして現在、タイで共に事業を進めるまでになった。「はじめは少しだけタイでの事業構築を手伝ってくれないか、と頼まれて、気づいたら駐在になっていた」と垣内ダイレクターは笑うが、三木MDは「社長とも相談して、やはり思いを共有できるかどうかというのを一番大事にしたかった」と垣内ダイレクターをタイ駐在に推した理由を語る。戸出貴智GMは2014年に経済産業省のインターンシッププログラムで半年ほどタイに滞在した経験があり、「言葉も社会の仕組みも異なり、事業の難しさを感じます」と話す。
経営戦略を担う立場から、まさに現場の第一線に赴き、三木MDは「タイは日本のような閉塞感はなく、活気がありますが、競争レベルも高い。まさに戦場だと思っています。スピード感をもって事業を運営していくことが必要で、修正と実行を日々繰り返さないと生き残れない。やりがいと厳しさを感じています」と意気込む。日本人駐在員をはじめタイで暮らす人たちへ安心を提供すると共に、ドライバーの社会的地位の向上と交通事故の低減を目指し、SBTIは一歩ずつ歩みを進めている。
会社情報
会社名 | Shinki Bus Transport Integration Co., Ltd. |
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住所 | 8 The Horizon 4th Fl., Room No.8440, Soi Sukhumvit 63, Prakhanong-nua, Wattana, Bangkok 10110 |
お問い合わせ先 | Tel:02-0117-157~8 E-mail:info.sbti@shinkigroup.com |
担当者名 | 日本人窓口:垣内 Tel:095-780-7102 タイ人窓口:Somyos Tel:063-809-5588 |