泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第36回 『越日工業大学への期待』
タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回はもうすぐ誕生する越日工業大学(VJIT)の動きを紹介します。同大学では、2度にわたる泰日工業大学訪問の経験を踏まえ、当初の日本式職業訓練大学構想を全面的に変更し、TNIのやり方に倣った方式を取り入れて開学します。VJITとTNI幹部の意見交換に基づき、両大学の日本的ものづくり教育と日本語教育のやり方を紹介します。
VJIT(越日工業大学)の誕生
VJIT(Vietnam-Japan Institute of Technology)は、インターネットで検索するとインドのVidya Jyothi Institute of Technologyと出てきて、日本名の越日工業大学同様、まだ世間に知られた存在ではないようです。
親団体のホーチミン市工業大学(HUTECH:Ho Chi Minh City University of Technology)は、(旧国立大学が払い下げられて)1995年に私立大学として開学し、現在学生数4万人の総合大学となっていますが、新たに日本の「先進的なカリキュラム」を導入し、ベトナムと日本の企業ニーズに応えるというものです。HUTECHの副学長のDr. Nguyen Xuan Hoang Viet氏がVJIT学長に、日本語学科主任のMs. Nguyen Thi Bich Thuy氏が日本語学科長になり、両氏とともに日本語教育を支援する青山スクールオブジャパニーズ代表取締役・校長の中西郁太郎氏とI.C. Nagoya日本語学校代表取締役・校長の丸山茂樹氏が6月4日にTNIを訪れ、ものづくり教育と日本語教育について意見交換をしました。
すでに2014年9月4日の第1回TNI訪問で、それまでの職業訓練学校的なものを抜本的に改め、ものづくり教育を日本の金沢工業大学(KIT)をモデルにした教育プログラムに変更、さらに日本企業での4カ月間のインターンシッププログラムや、各種奨学金制度を利用する計画など、TNI方式を参考にされています。
2回目の訪問では、日本語教育とものづくり教育を確かなものにして、校舎をホーチミン市ビンタン地区のHUTECH大学内に設けて、300人の学生を対象に今年9月に開学したいとのことでした。TNIでは、「タイ近隣諸国関係者がTNIのものづくり教育の経験を積極活用していただくのは、関係諸国・機関の友好と相互向上につながり、大歓迎でこれからもこの友情交流を継続したい」(バンディット学長)という考えで、この数年インドネシア、マレーシア、ミャンマーの大学間交流も活発に行っています。
日本的ものづくり教育と日本語教育について意見交換
VJITでは、ものづくり教育として、金沢工業大学のPD(Project Design)教育を取り入れ、自分で答えを見つけるやり方に焦点を置くこと、また日本語を教える大学はベトナムでは既に10カ所あるが、理系では初めてとのことです。1-3年の3年間で450時間を学習し、N2の日本語能力達成を目標にし、初級は「みんなの日本語」を教科書にし、中級では「ニューアプローチ」をするとのことです。また会話は日本人の先生中心ですが、教師は日本人30%、越の先生70%の割合とのことです。
これに対し、TNIのものづくり教育は、まずものづくりの土壌である日本企業文化の理解やチームワーク、規律など産業基礎教育が重要で、具体的には日本語教育を含め、日本語プレゼン・コンテストや国際PBL(課題解決型学習)の実施を重んじていることを紹介しました。
具体的テーマとしては、「自分で考え、自分で物が作れ、責任感を持ち、倫理・規範意識に優れた学生を、ものづくり教育によって育てる」ことを目標に、ロボットコンテストや学生フォーミュラ大会などの「ものづくり全般の習得」、TNI創造性・革新活動投票評価や、ビジネス企画・省エネキャンペーンなどの「チームワーク・責任感などの育成」、親孝行学生表彰、非行防止キャンペーンなどの「倫理・規範意識の育成」(TNIニュースレターNo.8日本的ものづくりの教育をご参照)を紹介しました。
また主として當山淳日本語講師(TNI語学教養課程部)から、TNI日本語教育について次の紹介をしました。
- TNIでは日・英語24単位を教え、日本語は1年から3年まで5学期に分けて1-15単位=225時間の授業をする。⋆BJ日本語・経営学課程コースを除く。またタイ教育省の遵守しなければならない専門課目と語学・教養課程の単位がある
- 「みんなの日本語」は、集中で300時間教える内容があり、つまり教えることが相対的に多すぎ、日本語が嫌いにならないよう、達成感があって、モチベーションを揚げることを加味した独自の教科書を作った。言葉、文法を減らし、コミュニケーション日本語に重きを置き(これらの部分は、N3レベルが新たに2010年加わったことに関連)、漢字も減らしている。漢字は意味の理解に影響するが、ハードルを下げ、学生のアレルギーを下げたが、最終的に漢字の定着が遅くなり課題も生じている。また、「か」と「が」の区別などタイ人音声にも気を使っている。
- 例えば、能力試験の目標は100点を取ることでなく、リスニング能力を強調し、文法は少し入れ、他は最低レベルを取れば、合格レベルを上げることができる。
- VJITカリキュラムの教育方針に「うつくしい・きれいな日本語」とあるが、TNIでは仕事の内容が伝わる、問題が分かることが重要で、ある点で敬語を使わず、わかりやすい方が重要と考えている。きれいより、丁寧な日本語で、お互いを尊重し、否定しない会話の気配りをしている。
- 各学期(1学期は3カ月)にプロジェクトワークを実施。プレゼン・発表、日本人との対話に重きを置き、その準備や個別指導に時間をかけている。つまりプランの相談、プレゼン練習、アドバイスで時間外指導も重要になる。(以下次号では、この意見交換の続きと、アセアンのものづくり大学の動きをご紹介します)
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