泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第37回 『アセアンのものづくり大学の動き』
VJIT(越日工業大学)の質問に答えてのTNIの日本語教育
意見交換は、当初の2時間を超して3時間にのぼりました。また、翌日も授業見学していただくことになり、ベトナムでものづくり教育と日本語教育を立ち上げたいという熱意あふれたものになりました。當山純講師の話を続けます。
- 一般に文系出身の日本語先生は、「工学部学生はあまり覚えない」というが、理解することに重きをおく学生を教師側が、理解していない問題がある。→座学のみで覚えが早いのは経営学部学生で、工学部学生は覚えるより、理解に重点があるが、後で日本語力も伸びることになる。
- TNIの日本語講師は30数人で、日本人とタイ人教師の比率は半分ずつ。日本人とタイ人はペアでチーム・ティーチングでテキストを進める。お互いの得意とするところや、会話を日本人にすることなどは、ある面で現実的でなく、タイ人・日本人どちらも教え、補い合う。(⇔ベトナムでは学生の希望で、会話は日本人が中心)
- 35人/クラスで、課題は、個別指導が難しく、特に若い (新米の) 先生は苦労する。
- 試験は中間20%、期末20%などで60%。他に出席状況評価、直接面接が配点基準。各課では習得確認に小テスト=クイズを入れる。
- 例えば、ものづくり教育の一環で、5Sを教えるが、先生が中身を理解して知らせる必要がある。時間意識も日本人先生は厳しいが、一学期15単位の内、途中から厳しさが学生に伝わる。
- チームワークについても日本語授業でもチームでやらせるが、教師のサポートが必要。分業で勝手にやるのではなく、助け合ってやる、相乗効果を生むやり方が重要。
當山先生からは「TNIの日本語教育は、まだ完成されたものでなく、越日工業大学が誕生し、お互いに勉強・刺激しあう機会が増えることは歓迎」との発言もありました。
さらにバンディット学長から次の補足がありました:TNIでは、日本の企業文化でタイ人の手本になる点として、先生と学生に、①ものづくり、②カイゼン、③反省、④尊敬、⑤誠実、⑥公共心に重きを置いてもらっている。これらはタイ社会の弱いところで、これらの点の強化に意義がある。日本語教育のほか、大学のあらゆる教育機会に、これらの企業文化と教育の機会を設けている。
アセアン各国のものづくり大学の進展状況
以下の3カ国で実現されつつあります。
○インドネシア:ダルマプルサダ大学(UNSADA)
1986年にインドネシア・日本友好協会(PPIJ)とインドネシア元日本留学生協会(PERSADA)が協力し、尼・日両国への感謝・友好の証として設立した私立大学で、校舎は首都ジャカルタ東部のボンドラック・クラパ地区にあります。TNIより歴史は古く、設立30年になる総合大学ですが、現在オロアン学長の下、より日系企業などのニーズにあった人材育成を目指し、日本語教育充実と日本のものづくり精神にならい、インドネシアで随一の産業人材を育成する「ものづくり大学」になるべく教育プログラムの改革に取り組んでいます。
○マレーシア日本国際工科院(MJIIT)
1982年に始まったルック・イースト(東方に学ぶ)政策の集大成として、日・マレーシア首脳間の合意を踏まえ、2010年5月にマレーシア政府により設立が決定されたものです。日本国内の大学を中心としたコンソーシアムから,日本人教員の派遣,カリキュラムの策定等の協力を受けています。校舎は、マレーシア工科大学(UTM)国際キャンパス内にあります。MJIITは、日本とマレーシアとの間の人的交流促進に寄与することはもとより、日本式工学教育を受けた優秀な人材を育成する場として、ASEANの工学教育のハブとなり、アジアをリードする高等教育機関に発展していくことが期待されています。
○ミャンマー:緬日工業大学
ミャンマーでは、元日本留学生会(MAJA)および元AOTS-HIDA研修生同窓会、ミャンマー商工会議所連合会(UMFCCI)が中核メンバーになり、日本側も政府機関、大学、企業などの日・ミャンマー産学官コンソーシアムが検討されていて、急速に大学構想が実現されつつあります。TNIでもこの数年来、親団体TPAとともに、TNIを見学していただいています
ものづくり大学運営の課題
以上、国により産学官連携の中で主体に特徴がありそうですが、最後に、TNIの経験を基にものづくり大学運営の基本をバンディット学長に語ってもらいました。
- 核になる幹部の重要性:日本の事情を理解し、自分で納得し、自国社会に適応・活用する考え方を持っている幹部が重要で、ものづくり大学を運営・リードするリーダー、理事会の役割・重要性を指摘したい。(近隣国によっては必ずしも日本のことや日本語をそれほど知らない人がかなり関わっている場合もあるようです)
- タイではタイージャパン(日本)の名前を民間機関が使うことに関し、幹部は、責任を感じており、(日本側は、→実行・土台づくりにややオプチミスティックに見えるが)両国名を名乗る大学が長期的考えで名声を得る努力が重要。
さらにもう1つ付け加えたいのは、日本(日系)企業・団体への窓口、PRなどネットワークづくりに日本人が関わる重要性です。日系企業への卒業生の就職、日本大学等との学術および人的交流、産学官連携事業など、大学を取り巻く環境は激変しつつあり、とりわけ日本機関・日本企業とのネットワークが重要で、日本人が積極的に関わり、これらの関係者にいかに連携していくかが重要です。
筆者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問