泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第66回『TNI卒業生の大学評価』
タイでのものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。TNIはお陰様で昨年8月開学10周年を祝いました。その折、10周年記念誌を発行しましたが、本号では、この時に紹介したTNI学部卒業生のアンケート結果などから、彼らの大学評価を取り上げます。
アンケートは、次の2つのねらいがあります:(1)これまでの卒業生の現状を把握する、(2)彼らのTNIの学習内容などの評価を確認する。➡この結果は下記のまとめの通りで、ほぼ全員TNIで学んだことを肯定、今の仕事に活かしていると言えます。また貴重な意見・提案を貰いました。
アンケート対象者
2016年11-12月、TNI学部卒業生1期から5期2,629人中、連絡の取れる 1,260人にアンケートを発送し、135人から回答を得ました。(直近の第6-7期は、卒業後間もなく対象から外しました)。回答率は10.7%であり、かなり複雑な内容にメールで自主的に応えてもらうやり方は、タイ一般の常識を超え、かなり協力していただいたと考えます。
学部別回答者数
直近第6期までの卒業生数は、工学部970人(7%)、情報技術学部827人(25.4%)、経営学部1465人(44.9%)で総人数3,262人(100%)になります。図は、情報技術学部卒業生が相対的にやや高い回答率を示していますが、そんなに偏っていない比率と判断します。なお図2の教育年度別卒業生では2013年度=4期の卒業生が39人回答で最大(1期16人、2期25人、3期23人、5期22人)です。つまり卒業して3年ぐらいの卒業生が最多数意見になります。
現在の職務
卒業生は、ほぼ学部で専攻した内容の仕事をしています。なお卒業生は、第1期生でも30歳前後で、中核産業人材になるにはもう少し時間がかかる一方、インタビューでは、エンジニア、ITスペシャリスト、プログラマー、管理者、社長秘書、通訳、ビジネスアナリスト、企業経営者など出身学部を反映した仕事についています
転職の有無
日本でも入社3年で3割が辞めるという現状(日本経済新聞3.3)の一方、タイでは、終身雇用という価値概念も難しく、40代後半でないと仕事は続かないと言われています。回答では、転職なし65人、有り70人という結果で、複数回以上の転職は、仕事の特性からか、情報技術学部がやや多いが、他はそれ程でもないようです。転職なしの意見:今の給与が良い、職務に満足、仕事は発展している。転職の意見:修士課程に進学のため、会社が小さく、規則が問題、給与問題。専攻分野でなかった、仕事が安定していない、農業に挑戦。
青年実業家ウッティポン氏
ここではTNI第1期生で、昨年タイの第9回中小企業賞を受賞した、青年実業家ウッテイポン氏の例を紹介させていただきます。( Wuttipong Panitsettakorn:Quality Plus Aesthetic International社(120人従業員の化粧品製造会社)、他3社を経営)。
TNI卒業後アメリカの自動車部品会社の販売担当を6か月経験(米国に1か月、中国に5か月勤務)。この仕事はあまり情熱を持てなく、また家族のいるスパンブリには程遠く、自分の好きな商品企画・マーケティングをやりたいと思っていたところ、中国は大気汚染がひどく、TNI学生時代、日本の研修や、タイでの家庭教師のアルバイトなどを通じ、スキンケア・化粧品の仕事が遣り甲斐があると認識。それでタイに戻り、ビジネスパートナーと化粧品事業を起業することを決意。おかげで、昨年東京国際化粧品フェア(2017.1)で、起業したスキンケア製品のタイ日協力成果例(日本の皮膚活性剤とタイのハーブを合成し、120人従業員、6カ国に拠点を持つ規模に成長)を発表出来るまでに成長できた。
今はオーナー兼社長として、アジア最高クラスの「相談できる化粧品メーカー」になるというビジョンを持ち、 私の役割は、このビジョンを達成するため会社と事業を支えるすべてを行うこと。 これらに必要なことは、ほとんど管理スキルで、 私はすべての部門長が組織開発を推進できるよう監督・支援している。 一方、現在、私がやっていることは、従業員がより容易に、そして幸せに働くことを支援する会社システムの開発。 また、より少ない時間で、楽に、そしてスマートに仕事することが私の仕事のコンセプト。 これらの継続的改善、すなわちカイゼンは私がTNIから学んだもの。
TNI1期生であったことは幸運。 TNIは私にとって単なる大学でなく、第2の家。私は工業経営学(IM)専攻で、企業活動に有益な諸テーマを幅広く学び、多くの課題を処理する能力を身につけることができた。社会人になり、これら学んだことを仕事に生かすことができた。私が採用したTNIの後輩も多くが同様で、我が社の幹部として頑張ってくれている。私はいつも日本的な考え方や働き方をわが社のモデルとして取り入れている。5Sやカイゼン大会も取り入れ、うまくいっている。日本の文化や言語を学んだのも良い経験で、なぜなら、各国で異文化に取り組む方法をもっと理解できることになる。
また良かった理由の一つは、私には日本人の研究・開発のパートナーがおり、もちろん私が日本語を話すことができ、文化や働き方も理解できるから。 そして、我々が一緒に取り組んでいるのは、単に製品を売ったり買ったりするのではなく、とても緊密なパートナーであるということ。つまり我々は単に 利益に焦点を当てるだけでなく、お互いに利益をもたらすためにお互いをサポートする友人になっている。 (次号につづく)
筆者 吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問