泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第69回『アジア・タイの展望と日系企業 』
タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。本号では、元タイ中央銀行総裁のタリサーさんに昨年11月のJセミナー(日系企業勉強会)で講演いただいた表題テーマをご紹介いたします。皆様の参考にして頂ければ幸いです。なおJセミナーは年2回:6・11月に開催します。ご参加をお待ちしています。
アジア・タイの展望と日系企業 タリサー・ワタナゲート Dr. Tarisa Watanagase元タイ中央銀行総裁
- 世界の成長を牽引するアジア-6つの特徴
①中国、インド、アセアンに代表されるアジアの各国は世界全体の輸出の36.9%を占め、将来的に世界経済のエンジンとなりうる。また、すでにいくつかの地域で経済統合が進んでおり、今後一層の統合が見込まれる。
②アジアは世界の人口の60%(45億)を占めており、将来も高い可能性がある(図1参照)。アフリカは増加、他地域はあまり伸びない。現在から2050年まで、さらなる人口増が見込まれる。
③顕著な都市化と中産階級の拡大:2014年の時点で、中国は54.4%が都市部に居住し都市化が進行しており、世界平均の53.6%を上回る。アセアンとインド(特に後者)には今後の都市化について依然として大きな成長の余地がある。
④ 先進国に比べ民間・政府の消費の拡大の余地が相当量存在している。膨大な人口、止まらぬ都市化、中産階級の拡大は先進国に追いつくための重要な指標である。
⑤民間消費、政府消費、総計指標から、すべての面で消費拡大の大きな余地があり、中産階級化の余地が大きい。
⑥アジアは、図2に見るように、インフラが著しく不足し、日米に比較しても高額な輸送費となっている。電気、交通、通信、上下水道、衛生設備なども大きな改善の余地がある。➡インフラへの投資は東アジア・東南アジア・南アジアで2010年から2020年の間に8兆ドル(約640兆円)必要である(アジア開発銀行推計)。
2.タイでのビジネスチャンス–短期展望(現在の経済概況とタイの競争力の改善)
- 現在の経済状況はこの数カ月、良好で、特に輸出と観光産業は拡大し続けている。また民間消費、民間投資も今後も拡大すると予想される。公共支出は東部経済回廊(EEC)メガプロジェクトなどで、今なお成長要因としての側面を保っている(*タイの競争力をご参照)。
タイの競争力(世界経済フォーラムWEFの評価)
1. マクロ経済環境(13位→9位): · インフレーション (88位 → 53位) :否定的状況からの黒字転換による。 · 国債(60位→54位)と 収支均衡(13位→10位) 2. インフラ(49位→ 43位) : · すべての輸送手段で、特に鉄道路線77位→ 72位、航空輸送42位→39位。 · 携帯電話加入55位→5位。 |
- また、GDP成長、経常収支の指標もすべてプラス方向であり、輸出、観光産業と国内需要の持続的な成長に支えられ、タイ経済はさらなる速度での成長が見込まれる。
- さらにビジネスのやりやすさ、競争力ランキングで、最近の世界経済フォーラム(WEF)でも46位から26位に上昇し、高評価である。そして3年前から大きな改革が進行中であり、近隣のCLMV(カンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナム)、南アジア、中国南部への玄関口として戦略的要衝地である。またEECは、今後のタイ経済の成長エンジンであり、中国と日本からの高速鉄道、運行システムなどの投資提案も進行中である。
編者 吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問