タイ企業動向
第45回「タイ大麻合法化の動き」
リラックス効果や開放感、健康改善などさまざまな生理作用のほか、がんなどの治療にも有効とされる大麻。その薬物の合法化がタイで進められている。軍政下の昨年11月に暫定議会で改正麻薬取締法が可決・承認され、医療及び研究目的での製造や輸出入、臨床試験、患者への投与が可能となった。4月には規則の詳細を定めた保健省令も閣議決定され、臨床実験や患者への処方も本格化する。事態が急変した背後には、「大麻自由化」を掲げる政党の連立政権参加があり、新たな市場発掘を目指す民間企業からの要請や動きがあった。新たな付加価値を生むとされる大麻産業の今を追った。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)
7月半ばに発足した民政復帰の新政権は大小19の政党の寄り合い所帯。この中で下院過半数獲得のキャスティングボートを握ったのが中堅政党の「プームジャイタイ党(タイ名誉党)」だった。3月24日に実施された8年ぶりの総選挙で同党は51議席を獲得。第5党となったが、連立政権の中では親軍政党の国民国家の力党を支える実質的な要にあり、アヌティン党首は副首相兼保健相にも就任した。閣内発言力は決して無視できない。
同党は2008年にタクシン派政党が憲法裁判所から解党命令を受けた際に新たに結成された政党で、タクシン派にも所属していた地方の有力政治家らで組織する。08~11年の民主党政権下では連立に参加。前回11年の下院選挙でも500議席中3議席を確保して第3党になった。アヌティン党首はタイの大手総合建設会社シノタイ・エンジニアリング&コンストラクションのオーナー一族の出身で財界とのパイプも太い。拠点の一つ東北部ブリーラム県には強い影響力を持つ党の重鎮政治家のネーウィン氏がいる。
プームヂャイタイ党が選挙以前から一貫して訴えてきたのが、大麻の自由化だった。アヌティン党首は4月20日の「大麻の日」に合わせてブリーラム県で開かれた大麻関連のイベントで「政権党が大麻自由化に賛同しない場合、連立には加わらない」と断言。連立政権第1党の国民国家の力党はこの認否を明言していないが、すでに軍政のプラユット前暫定政権下でも医療用大麻の合法化に向けた動きは始まっており、新政権もこれに沿った動きを見せている。
加えて、タイが大きく大麻解禁に舵を切った背景に、産業界からの強い要請があった。「中進国の罠」からの脱却に向けて、高付加価値産業の育成に足並みを揃えて力を入れるタイ政府と産業界。自動車や電気電子、航空宇宙といった製造業の分野では自動化や高度化がかなりの進捗で進められてきたものの、今なおタイの産業の半分を占める農業分野や少子高齢化社会を支える医療分野での対応は十分とは言えなかった。この事態を打開するために持ち上がった切り札が大麻解禁だったのだ。
食品加工企業らで作るタイ食品加工業者協会(TFPA)は新たな食品産業を隆盛させていくきっかけにしたいと、大麻成分を配合した健康食品開発について認可を強く求めている。大麻が合法化された欧米などの世界市場では、大麻成分の食品への添加も認められており、こうして作られた飲料や菓子などはリラックス効果もあって、従来品よりも20~40%も高い値で取引されている。TFPA加盟の民間企業の中には、すでにノウハウを確立させている研究施設や工場もあるといい、合法的な大麻の栽培が広がれば、最終的に農家の所得向上にもつながるというのが彼らの主張だ。
大麻草には100を超える化学成分が含まれているとされ、人体のカンナビノイド受容体に触れると開放感や快適な反応が全身に広がり、健康改善などのさまざまな生理作用を引き起こすことが知られている。大麻草から抽出したカンナビジオールオイルを使った食品は欧米などですでに健康食品として販売されており、健康被害はほとんど知られていない。このためTFPAでは、加盟企業に呼びかけて研究開発を進めるよう促している。
熱帯という天然の生育環境から大麻の栽培に適したタイでは、アユタヤ王朝時代(14~18世紀)にすでに伝統薬としての大麻の利用が始まっている。数千、数万種があるとされるハーブ(薬草)と同様の位置づけで、薬として投与するほか食品への添加も日常的に行われてきた。それが近年の麻薬汚染とともに姿を消し、法律で生産や売買が厳しく制限をされてきた。
保健省によれば、医療用や健康食品などに限って現在大麻が合法化されているのは、カナダやオランダ、イギリス、ウルグアイ、豪州、ニュージーランドなど南北アメリカと欧州、大洋州を中心に約30カ国。アジアではフィリピンが16年に解禁をし、インドでも見直しが進められている。タイ政府による大麻解禁はもはや時代の趨勢なのかもしれない。(つづく)
タイ大麻合法化に伴う最近の主な動き
区間 | 延長キロ | 現況 |
昆明~玉渓 | 約79キロ | 2016年12月に開通。景洪を経てラオス国境モーハンまでの南伸が計画されている。現在は一日4往復で、重慶、北京などを結ぶ。北京までの快速列車は18両編成、約40時間かかる。 |
玉渓~景洪~磨憨(モーハン) | 約510キロ | 昆明に南接する地級市が玉渓。景洪を経由、ラオス国境のモーハンへの約510キロが現在建設中。完成は21年中を予定。山岳地帯が続き、タイ族と祖を同じくする「傣族」が多く暮らす。 |
ボーテン~ビエンチャン | 約420キロ | 開業後の採算不明の中、中国最大の国営インフラ企業「中国中鉄股份有限公司」が事実上の建設主体に。総事業費は約60億米ドルで中国側が7割負担。21年中の開業目指す。 |
ビエンチャン~ノーンカーイ | 約20キロ | 4月の一帯一路フォーラムで中国・タイ・ラオス3国が覚書締結。ビエンチャンとノーンカーイを結ぶ新線建設で合意。タイ国内の新線及びラオスの中老鉄道とも接続する。23年完成予定。 |
ノーンカーイ~ナコーンラーチャシーマー | 約355キロ | 中タイ高速鉄道事業の第2期工事区間。総事業費は2000億バーツ超の見込みで、うち85%を中国や国際機関から調達する計画。20年半ばにも入札の見通しで、23年完成予定。 |
ナコーンラーチャシーマー~バンコク | 約253キロ | タイ中高速鉄道の第1期工事がこの区間。17年末に一部で着工。21年内の開業を予定。工事は14工区に分け、総事業費は1790億バーツを見積もり、うち8割を国内調達する。 |
総延長(昆明~ビエンチャン~バンコク) | 計約1650キロ | 中国昆明からラオスを経てバンコクを結ぶ一大国際鉄道網計画。中国一帯一路の基幹政策。昆明から先はすでに整備を終え北京までの鉄路がある。既設線を使ったバンコクからの南伸も視野に入れる。 |
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