タカハシ社長の南国奮闘録
第99話 組織の免疫力
一ヶ月前はだれも予測していなかったコロナショック。前号でも取り上げたが、2020年の干支は庚子(かのえね)である。庚子は「増殖する」という年回りなので、これからもさらなる拡大が予測される。 コロナウイルスは目に見えない敵だ。人は目に見えないものに対して無防備かつ無力である。油断すると心の隙に入り込まれ、やがてそれは不安を生み、気が付いたらネガティブ思考になっている。心の不安は足を引っ張る。 経営者はそうした時、絶対に下を向かず、見えない敵と正面からぶつかるつもりで戦わねばならない。
物事をネガティブにとらえる派が大多数で、チャンスと捉える派は少数になるが、トップは予期せぬ緊急事態にもネガティブにならず、状況をいち早く理解して対策を立てるべきだ。 ここで重要になってくるのが組織の免疫力である。それがなければ、どれだけ仕事を掴もうと社長の一人歩きになってしまう。免疫力の付け方はとてもシンプルだ。地道な努力の積み重ねである。努力の積み重ねが実績となり、やがて組織の免疫力となる。 私の好きなサッカー選手、ロベルト・バッジョ(元イタリア代表)は、「私の知っているドーピングはただ1つ、努力だ」、「今を戦えない者に、次や未来を語る資格はない」という言葉を残した。努力の過程には苦しむこと、負けそうになること、泣きたくなることもあるだろうが、それでも歯を食いしばって戦う。そうして免疫力は上がっていく。 私にもこの努力の大切さを実感した出来事がある。忘れもしない2009年11月初旬、突然のリーマンショックでタイ工場は最大のピンチを迎えた。工場の運営資金が切れたのだ。日本側も立ち直っておらず、自宅待機が続いていた時期だった。やむなくタイ工場の閉鎖を決めた。 その時の私は八方塞がりの状況にネガティブになり、閉鎖することで楽になろうとしていた。しかし、最後にもう一度だけ自分自身と向き合うことにした。そこで気づいたのは、受注減をリーマンショックのせいにしていたこと、経営を人任せにしていたこと、自ら努力せず逃げていたことだ。 そこからもう一度、新たな気持ちで再出発する覚悟を決めて、死にもの狂いで経営をした。苦手で避けてきた飛び込み営業、社員一人ひとりとのコミュニケーション、工場設備の修理など、現場作業を一から全部見直しタイ工場の改善に全力を尽くした。 すると徐々に新規のお客様から受注が入り、社員の離職率も減って、基盤が安定していくのを実感した。こうした一つひとつの努力の積み重ねが組織の免疫力を向上させるのだ。この時の経験があるから今回のコロナショックも落ち着いて対策し、立ち向かうことが出来ている。 諦めたらその場は一瞬ほっとするかもしれないが、二度と同じチャンスには恵まれなくなるだろう。 最終的には、経営はどこまでいっても精神論だと思う。好調な時でも、不調な時でも、その人自身の心の持ちかた一つでピンチにもチャンスにもなる。今回のコロナショックも組織の免疫力を上げるチャンスだ。 私はどんなピンチに追い込まれても絶対に諦めず、創業者精神で戦う気構えでいようと思う。
20年4月1日掲載